今月6日に陸上自衛隊のヘリコプターが沖縄県・宮古島周辺の海域で墜落した事故は、捜索活動が続けられている。ヘリに搭乗していた10人のうち8人が南西諸島などの防衛を担う第8師団の坂本雄一師団長など幹部クラスだった。自衛隊発足以来の前代未聞の事故であり、発生直後から「中国軍の攻撃ではないか」と、憶測を呼んだ。事故の前日、台湾の蔡英文総統と米国のマッカーシー下院議長が会談し、対中国に向けた連携強化を話し合った。これに強く反発した中国は周辺海域で大規模な軍事演習を開始しようとしていた。何らかの攻撃による撃墜はありうるのか。軍事評論家で、フォトジャーナリストの菊池雅之さんに聞いた。
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防衛省は11日の記者会見で、今回の事故に関して「関連するような中国軍の動向は確認していない」との見解を示した。SNS上で出回っている臆測を打ち消す発言だが、
「攻撃による墜落の可能性がゼロではない以上、検討する必要性は十分にあると思っています」
と、菊池さんは言う。
あくまで“可能性”として菊池さんが指摘するのは、ミサイルやドローンによる攻撃、もしくはヘリの飛行計器を麻痺させる電波や電磁波のよる電子攻撃だ。
「まず考えたのは、ゲリラ兵が宮古島、もしくはとなりの伊良部島に侵入し、ウクライナの戦場でも使われている携帯式地対空ミサイルをヘリに向けて発射した可能性です」
菊池さんが注目したのは、ヘリを墜落直前に撮影した外国人の証言だ。
「動画は事故の3分ほど前に撮影されたものですが、あの場所にいたら絶対にミサイルの発射音や爆発音が聞こえるはずなんです。ところが、撮影者はそのような音を聞いていません」
菊池さんは、今回のヘリが墜落した場所の近くを何回も訪れたことがあり、周囲の状況を熟知している。
「あの場所にいると、伊良部島に隣接する下地島に離着陸する飛行機の音がよく聞こえます。下地島の北側には離着陸する飛行機を真下から撮れる有名なポイントがあって、飛行機マニアがほぼ毎日いるのですが、事故当時、爆発音を聞いた、という話はまったく出てきていません」
墜落現場からそれほど離れていない場所には佐良浜港を中心に集落が広がっているが、ここでも大きな音を聞いたという証言はない。「なので、ミサイル攻撃はなかったと思います」。
ドローン攻撃の可能性は
ドローンをヘリに激突させた可能性はどうだろうか。
12日に一部で報じられた内容によると、事故の約2分前には法令で定められた最低安全高度の間近となる150メートルほどを飛行していたともいわれているが、それ以前に報じられた墜落前の動画で検証をすると、
「ヘリの動画を撮影した人が『1000フィートくらいの高さを飛んでいた』と語っています。つまり、高度約300メートル。ヘリが飛来するタイミングに合わせて、その高さまでドローンを上げて、回転翼にぶつけて墜落させるのはかなり困難でしょう」
菊池さんは陸自の演習などでドローンを運用する様子をつぶさに見てきた経験を踏まえて、「ドローンで撃墜した可能性も、まずない」と語る。