家庭の経済的な事情から、進学をあきらめる高校生がいる。そんな高校生を救済し、大学へ導くのが奨学金だ。なかでもユニークなのが、東洋大学の「独立自活」支援推薦入試。誰にでも学びの場を用意すべきと説いた、大学の創始者・井上円了の言葉を名称にした。合格すれば昼は大学で働き、夜はイブニングコースで学ぶ。今年度は各学科で1人、合計9人が合格した。
福留果梨さん(国際学部1年・19)が高校生のとき、大学進学という選択肢はなかった。3人きょうだいの末っ子で、兄も、勉強が好きだった姉も、経済的な理由から高卒で就職。進路指導の先生に就職することを告げると、「あきらめるな」とこの制度を勧められた。
「6学部9学科といっぱいあってびっくりしました。これなら自分で学費を払い、好きなことを学べる。考えただけでわくわくしました」
学費は53万5千円と国立大並みで、さらに半額にあたる26万5千円が返済のいらない給付型の奨学金として支給される。地方出身者は希望すれば、1日2食付きで月6万円の寮へ入居が可能。フルタイムで働くと月15万円の給料が支払われるため、親に頼らず学費を払い、生活費も賄える。貸与型奨学金は卒業後、返済できず自己破産するなど、社会問題になっているが、この制度を利用して自活すれば借金を背負わずに済む。
職場が大学のため、親にとっても安心だ。応募できる条件は5段階評価の評定平均値が4.3以上と、高い。進路指導の先生は、優秀な成績を収める福留さんを、なんとか大学へ送り出したかったのだろう。
導入した背景を、加藤建二入試部長は次のように語る。
「きっかけは東日本大震災です。仙台の高校におじゃますると、親御さんを亡くされて大学進学を断念する生徒たちがいました。被災地はもとより、全国には経済的な事情で進学をあきらめる高校生がいる。本学には3千人以上の学生が在籍する夜間部があり、これを利用して支援できる制度を作ろうと考えました」
法学部1年の黒崎隆馬さん(19)の夢は警察官。高卒でも実現可能だったが、キャリアアップを考えて、この制度を利用し入学した。