フェッファー教授からの要請でThe Paths to Powerの講義にゲストスピーカーとして呼ばれ、1F事故対応等の経験について語った(2013年)
フェッファー教授からの要請でThe Paths to Powerの講義にゲストスピーカーとして呼ばれ、1F事故対応等の経験について語った(2013年)
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 なぜ、スタンフォードは常にイノベーションを生み出すことができ、それが起業や社会変革につながっているのか? 書籍『未来を創造するスタンフォードのマインドセット イノベーション&社会変革の新実装』では、スタンフォード大学で学び、現在さまざまな最前線で活躍する21人が未来を語っている。著者のひとり、立岩健二氏は、スタンフォードでの社費留学での経験を活かし、保守的な東京電力という大企業で東京電力の社内ベンチャー、株式会社アジャイルエナジーXを立ち上げた。成功までには多くの失敗もあったという。本書より一部を抜粋・再編して、その道のりを紹介する。

【セグウェイ本社での試乗写真などはこちら】

「スタンフォード留学で自信を失った東電エリート社員が“絶対的自信”と“処世術”を手に入れるまで」よりつづく

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■社内ベンチャーへの挑戦その1:セグウェイ・シェアリング

 社費留学でMBAを取得させてもらったので、卒業後は会社が自分に投資してくれた額の10倍以上のリターンを生み出すつもりだ、と人事部門との面談で伝えたところ、「そんな意気込みを語る社員ははじめて」と驚かれた。MBAの経験を最大限発揮できる新規事業を希望したものの、留学前と同じ原子力部門に戻ることとなった。

 そこで、本業と並行してGSB2年目に考案したビジネスプランを、社内ベンチャーとして提案することとした。電動立ち乗り2輪車「セグウェイ」のシェアリングビジネスの東京での展開である。

 1999年に設立されたセグウェイ社の商品は、その革新的な技術と利便性で、大きな注目を集めていたが、高額であったことや道路交通法上の位置づけが不明確であったことから、世界的に販売は苦戦していた。そこで、短距離移動手段のニーズの高い東京都市部にセグウェイのシェアリングシステムを構築し、時間貸しで低廉なコストで、都心の駅からのラストワンマイル問題の解決に資するビジネスプランを提唱した。

 スタンフォード大学GSB(経営大学院)卒業直前に、ニューハンプシャー州のセグウェイ本社を訪問し、当時のCEOと面会し、全面的に協力するとの確約を取りつけることができた。セグウェイCEOとの面会は、GSBのクラスメートの奥さんが、セグウェイに出資している大手ベンチャーキャピタルであるクライナー・パーキンスの共同経営者だったことから紹介してもらい実現したものだった。スタンフォードGSB ネットワークの威力を実感するとともに、「ドアは叩かなければ開かれることはない」ことも痛感した。おそらくGSBに留学する前の筆者であれば、そもそもCEOに面会を申し込むなどという大それたことを思いつかなかっただろう。

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提案した時期が15年早すぎた