2010年にフェッファー教授が上梓した“Power”という組織論に関するビジネス書のなかの、「構造的空隙」について論じた章で、筆者の事例を紹介してくれた。邦訳版は、『「権力」を握る人の法則』(日本経済新聞出版・2011年)という刺激的なタイトルで、都内の書店で平積みになるくらいのベストセラーとなった。会社には特に報告していなかったのだが、ある日、上司に声をかけられた。「スタンフォードの有名教授が書いた本を読んだが、 『日本の大手電力会社に勤務する、MBAをもつ原子力エンジニアのケンジ』 って、立岩のことだよな!?」

 なおオプション理論といえば、ブラック・ショールズモデルが金融界では有名だが、このモデルの考案者の一人が、GSBのマイロン・ショールズ教授である。GSB卒業直前には、The Last Lecture Seriesと称する、豪華メンバーによる講義が行われるが、筆者の年のスピーカーは、ショールズ教授、マイケル・スペンス教授というノーベル賞受賞者2人と、エリック・シュミットGoogle CEOというラインナップだった。

 ショールズ教授が超難解なオプション理論について淡々と解説して多くの学生を煙に巻いていたのに対して、スペンス教授は難しい経済理論には触れず人生論について語り学生を感化していたという点が対照的で興味深かった。シュミットCEOは、若い創業者2人(ラリー・ペイジとセルゲイ・ブリンの両氏ともスタンフォード大学工学部出身)と協力しながら、いかにしてベンチャー企業の活気を保ちつつ企業規模を拡大してきたかについて熱く語り、シリコンバレー経営者の神髄を見た思いがした。

 マーガレット・ニール教授のネゴシエーションの授業では、各種交渉テクニックを学んだ後、クラスメート同士の模擬交渉で技を磨きあった。また、実社会で自らの交渉術を試す宿題も課された。筆者は近所のディスカウントストアで見事に失敗したが、ある日とあるクラスメートが、60個のクリスピークリームドーナッツをタダで入手してきたといって、クラスメートに配った。

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ドーナッツをタダで手に入れたネゴシエーションとは?