![STPプロジェクト建設予定地にて(2010年)。右端が筆者](https://aeradot.ismcdn.jp/mwimgs/1/b/840mw/img_1bdee293b52d87d9f92fc80685c74132104617.jpg)
筆者は、まさにこのようなプロジェクトを推進するためにMBAを取得したのだ、と天命に感謝しつつ、東京電力社内で、STPプロジェクトへの参画を提案した。ところが、原子力部門の最初の反応は、「ありえない」であった。当時、日本国内の原子力事業も難しい状況に陥っており、とても海外プロジェクトを支援できる状況になく、ましてや出資参画して主体的に取り組むなど、夢物語を語るにもほどがある、とけんもほろろな反応だった。
しかし、原子力部門にも筆者の構想に賛同してくれる社員が一定数いた。STPプロジェクトにまず技術支援という形でかかわることで、プロジェクトについての理解を深め、出資に向けたデューデリジェンスも兼ねながら、東京電力がもっとも貢献できる関与の仕方を検討するという戦略を提唱した。限定的な技術支援だけなら、ということで原子力部門の理解を取りつけ、2007年に東京電力として初の本格的な海外原子力技術支援契約の締結に成功した。そして、技術支援と並行して出資参画に向けた地ならしを進めた結果、2010年5月には、日本の電力会社として初となる海外原子力事業への出資契約締結を実現した。
この間、筆者は東京電力のプロジェクト・マネージャーとして、技術、商務、法務のすべての分野をとりまとめ、NRGエナジーとの出資交渉も主導した。この際、GSBで学んだファイナンスやネゴシエーションのスキルが、非常に役に立った。ファイナンスについては、留学前は知識がゼロであったところ、GSBで基本的な理論を学んだだけでなく、オプション理論もかじったことで、NRGエナジーとの交渉に際しては、東京電力の出資参画がNRGエナジーに対して大きなオプション価値をもたらす(=日本の電力会社が出資することで、国際協力銀行による融資を取りつけられる確率が有意に向上)、という論法で有利な条件を勝ち取ることができた。
フェッファー教授には、The Paths to Power の学びを東京電力でどのように適用しているかについて、卒業以来毎年メールで近況報告しているが、いつもおもしろがって即レスをくれる。