そこに出てきたのが金融工学です。一つのビルではなく、例えば1千万円の資産を1千個集めてきて100億円の資産とする。そして、一つのビルが倒産する確率よりも、分散した1千個の資産の方が倒産確率が低い、だからこの資産に対してローンを貸し出しても安心だ──という理屈で、格付け会社が高い格付けを付けたわけです。

 このモデルには欠点があります。集めてきた1千万円の資産一つ一つは、何らかの原資産の一部に過ぎません。たとえば5千万円の住宅の一部を1千万円の資産として切り取っているわけです。もしその資産が毀損した(住宅ローンなら不払いになった)場合、一体どうやってその住宅の一部の債権を差し押さえるのか、という現実が全く見えていない数学者の発想でしかないのです。この項、続きます。

※AERA 2018年9月24日号

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ぐっちー

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ぐっちーさん/1960年東京生まれ。モルガン・スタンレーなどを経て、投資会社でM&Aなどを手がける。本連載を加筆・再構成した『ぐっちーさんの政府も日銀も知らない経済復活の条件』が発売中

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