経済専門家のぐっちーさんが「AERA」で連載する「ここだけの話」をお届けします。モルガン・スタンレーなどを経て、現在は投資会社でM&Aなどを手がけるぐっちーさんが、日々の経済ニュースを鋭く分析します。
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リーマン・ショックから10年ということで、現場をろくに知らない学者、評論家、メディアによるいい加減な記事が横行していてため息が出ています。2006年時点で米国発の経済危機を的確に予言し、08年には渦中のニューヨークで会社を守っていた者としては、10年たってもこれかよ、と言いたくなります。
特に質が悪かったのは、某経済新聞に載った記事です。
「ファンドなどを通じてあふれ出たマネーが新たなバブルを生みだしてもいる。(中略)際限なく膨張するマネーをどう制御していくか。再び重い課題が突きつけられている」
冗談ではない、一体どこにマネーがあふれるファンドがあるのか実名を出してみろ、と言いたい。際限なく膨張するマネーなんてどこにも存在していない。一体何を根拠にこういう記事を書いているのか。
私が日本人の経済評論家でほぼ唯一、米国発の経済危機を予言できたのは偶然ではありません。ポイントは二つ。まず米国の住宅価格が高すぎたこと。若年労働人口が減少していた00年代に住宅価格が過剰に上がること自体、マクロ経済的にはかなり怪しいと見るべきです。実際にはローン基準(クレジットスコア)がかなり下がり、本来家を買えないような人まで住宅ローンの審査に通っていました。これはFRBのデータを見れば一目瞭然の事実でした。
二つ目は、こちらが重要なのですが、レバレッジという仕組みの発展です。例えば100億円のビルを購入する場合を考えます。10億円のエクイティ(資本)を調達し、残り90億円は銀行ローンで調達すると、レバレッジは10倍となります。この例では90億のローンがきちんと返済されるかどうかがポイントですが、恐らく成立しないでしょう。家賃が2カ月くらい滞納されると資本の10億は飛んでしまい、ビルの経営が破綻してローンが毀損する可能性が極めて高いからです。