現在は2児の母である大山さんは、「子どもたちが競技に純粋に取り組める環境をつくっていく責任を感じています」と今後もこの問題に向き合っていく決意を口にした。
盗撮などを取り締まる「撮影罪」の新設については、法制審で骨子案がまとまった。現在の刑法には盗撮の規定がなく、各都道府県の迷惑防止条例などで取り締まっているのが現状だ。だが、自治体ごとに条文が異なり、取り締まりの対象となる行為にばらつきがあるなどの問題点や、刑罰が軽いのではないかとも指摘されていた。
撮影罪では、性的な部位やわいせつな行為の盗撮などが処罰の対象となる見込みで、刑罰も今より重くなる。アスリートの盗撮に関しても、例えば試合会場のトイレでの選手の盗撮や、赤外線カメラでユニホームや着衣を透かして撮影する行為は、撮影罪の処罰対象となる。
だが、フォーラムの弁護士らが「残された課題」と指摘するのは、ユニホームなど着衣の上からの性的目的の撮影についてだ。法制審でも議論になったが、今回は見送られる形となった。
シンポジウムでは、この問題に取り組む工藤洋治弁護士(日本陸上競技連盟・法制委員会副委員長)が、法制審などでの議論の中で「そもそも処罰対象とすべきなのか」「処罰すべき行為を明確に切り分けられるのか」と、線引きの難しさを指摘する意見があったことを明かした。
工藤弁護士は、
▽陸上の100メートル走でスタートラインの後方から選手の腰が上がったところを狙いシャッターを切る
▽長距離走や駅伝でゴール後に倒れこんだところを狙って撮影する
などの事例を示し、有名選手だけではなく学生を含め、少なくとも20年くらい前からこうした盗撮被害があると指摘した。
写真はSNSにアップされ、なかには卑猥な言葉が添えられているものや、個人が特定される形での投稿もあるという。
工藤弁護士はこう訴える。
「選手が自身で見つけてしまった時の衝撃。増えていく閲覧数を見た時の絶望感。着衣の上からの撮影だから問題がないとは到底言えない」
線引きが難しいのは支援する法律家も認めているが、彼らはその壁をなんとかしようと行動している。「難しい」の壁を乗り越えたいと、勇気を出して声をあげているアスリートたちがいる。なにより、まずはこの現実を知って欲しいと願っていることが、シンポジウムから伝わってきた。
(AERA dot.編集部・國府田英之)