前出の竹村さんも、指導する対象の性にかかわらず「指導者と選手の関係性の見直し」の必要性を掲げる。
「(女子の体操や女子レスリングで)今回明らかになった支配と被支配の関係性のなかでは、殴られても仕方ないとか、コーチが言うんだから私が悪いんだろうと考えてしまいがち。このような関係性の中では、指導者の言うことに服従する他律的な選手しか育たない。指導者と選手は立場は異なるが、人間としては対等であることを再認識する必要がある。指導者はただ命令するのではなく、自身の指導方針や指導内容について選手に情報提供を行い、選手が納得、理解、判断して練習をしていくといった協働関係が求められる。そこに男女の差はない」
そもそも日本人の教育観では、他律的な子どもが育ちやすいものだ。
「スポーツ以外でも自律的であることが求められるのが現代社会。自律性を育てるには、大人が幼少期から子どもの意思を尊重する、確認する、自分とは異なる人格として認めることが重要でしょう」(竹村さん)
一方で、女性指導者が少ないことも、女子へのパワハラ指導が減らないひとつの要因だ。例えば、男女の競技人口に大きな差のないバスケットボールでも、日本協会でコーチ資格を得て登録されている人は、男性が3万4391人なのに対し女性は1万414人と3分の1に満たない。トップリーグの監督を務められるS級資格となると、男性46人に対し女性はゼロだ。
女性リーダー・コーチアカデミーなどを開催する女性スポーツ研究センターの小笠原悦子センター長はこう話す。
「暴力や暴言に頼らなくても世界と戦えるアスリートを育てられる女性コーチを増やしていきたい。みんなにリスペクトされるロールモデルをつくりたい」
8月にあったアジア大会ではメダル数は女子のほうが多かった。選手のみならず女性指導者の正しい育成も、女子アスリートをパワハラ問題から救う一助になる。(ライター・島沢優子)
※AERA 2018年9月24日号より抜粋