女子体操の体罰問題や、女子レスリングのパワハラ問題など、女子スポーツ界で様々な問題が表面化している。女子が暴力的指導を受けやすく、かつそれを許容しやすいのは、「日本では女子のほうが男子より自律性が低いと思われがちだから」という社会的背景があると、日本福祉大学スポーツ科学部准教授の竹村瑞穂さんは指摘する。同様の声は、他競技でもあがっている。
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テニスの全米オープンで4強入りした錦織圭選手を米国に渡るまで指導した足跡などを『戦略脳を育てる テニス・グランドスラムへの翼』に著した柏井正樹さんも、同様の指摘をする。
「これまでは(テニスの指導現場でも)男女で違う教え方をしなきゃと言う人が多かった。女子は主体性がないから押し付けなきゃダメだという発想だった」
錦織選手だけでなく女子のプロ選手も育てた柏井さんは、周囲と一線を画すように、男女とも選手に主体性を求める指導を続けてきた。しかしながら、前出の竹村さんの言う「自律性」に通じる「主体性」は、女子のほうが弱いと感じているという。
柏井さんによると、女子は同調圧力が男子より強い。そのため、コーチの言う通りにやるんだという教え方のほうが、指導の効率がいいと思われてきたという。
「以前はそんな考えで通用してきたかもしれないが、指導というのは、コーチと選手の両者が必要だと考えることに取り組むのが前提だと思う。日本の体操やレスリングで女子に行ってきた指導が、時代に合わなくなってきているのではないか」
新旧の指導スタイルに大きな乖離が生まれ、旧来のスタイルはおかしいという意思を選手も示せるようになったがゆえ、暴力や暴言といったパワハラ指導に反旗が翻されるようになった。選手を威圧感で制するのではなく、選手の意見を尊重し、力を伸ばすという新しいスタイルの指導者も増えている。
「よほど特別な存在でない限り、アスリートは勝つよりも負ける回数のほうが多い。傷つくことが多いのは当然なのだから、選手をほめたり認めたりしてあげることが大事。認めたうえで、じゃあどうする? こうしようか?などと、次の展望を見せてあげることが重要だ」
と柏井さんは指導者の役割を説明する。この点は、男女共通だろう。