そこで、遠隔・在宅勤務を始めたときは職場の椅子を減らし、クラウドソーシングでは、月5万円の外部発注を「業務目標」に設定。社員が制度を利用することに後ろめたさを感じない環境をつくった。
仕事に対する不満や悩みを社員同士で共有する「セッション」も、月2回開いている。
「大切にしているのは、『解決』することではなく、そうした感情を抱いた『理由』を全員でよく聞くこと。解決に重点を置くと、多数派の意見に押されて自分の気持ちを言えなくなってしまいますから」(管さん)
育児や介護の負担が大きい時期、仕事との両立に悩む人は多い。そうした社員の支援に積極的に取り組むのが三井不動産だ。
「介護コンサルティング制度」をつくり、ケアマネジャーの資格をもった相談員が常駐。介護施設の入居に必要な金額や食事介助の仕方まで、社員の悩みに個別にアドバイスしている。
人事部の堀田文枝さん(42)は、制度の意義をこう語る。
「私も家族の急な相談事で利用し、ずいぶん助かりました。会社に専門家がいて、適切なアドバイスをくれる場があるのは、精神的にも心強いと感じました」
介護状況に応じ、月間で勤務時間を調整できる「フレックス型介護時短勤務制度」や男性社員が5日連続で育休を取得できる「育パパトレーニング休暇制度」も好評だ。同部の蛭田和行さん(50)は「離職や休職を防ぐ上でも、家庭と仕事の両立を支援する制度は有効だ」と話す。
失敗しても再チャレンジができる、何かあったときに周囲がサポートしてくれる体制が整っていることなども、「なんとかなる」と前向きでいられる。
自然派コスメの製造販売をするラッシュジャパンでは、会社の一方的な都合による本人の意思に反した異動は行わない。希望しているポストに空きがあれば、誰でも、何度でもチャレンジできる。その分野の経験の有無も問わない。人事総務部長の安田雅彦さん(51)は言う。
「うちには、定型的なキャリアパスというものがありません。どんなキャリアを描くかは自分次第なんです」
自分次第といっても、ほったらかしにするわけではない。うまくいかない時にはその原因を一緒に探り、当人にフィードバックする。そうやって、望むキャリアを歩めるよう、周囲が支援していく風土がある。
今から10年以上も前の2007年に「働き方革命事業部」をつくり、先駆的に取り組んできた認定NPOフローレンスがいま取り組むのが、マニュアルの刷新と共有だ。
「1タスク2パーソン」を掲げ、たとえ誰かが急に休んでも仕事が回るように業務をすべてマニュアル化。誰でも引き継げるようにして、自らの働き方を組み立てることができた。
マニュアルは自由な形式で作る。事業部の斉藤幸子さん(42)は効果をこう説明する。
「業務で悩んだり、聞いたり、教えたり、という時間が削減でき、その分新しい提案を考える時間に充てられます。それこそ、自分にしかできないことです」 (編集部・深澤友紀、石臥薫子、ライター・澤田憲、ノンフィクションライター・古川雅子)
※AERA 2018年9月17日号