さらに館内をぶらりと歩き回れば、エレベーターを待つ間も廊下の窓の外を眺めるついででさえも、ふと足を止めて本を読みたくなるスペースがいくつも設けられていることに気づく。

「私たちは『おこもりスペース』と呼んでいるのですが、独り籠って過ごせるスペースを意図的に館内各所につくっています。気に入った本を気に入った場所で、気兼ねなく楽しんでほしいと思っています」(岩佐さん)

 ベッドルームには、テレビも電話も時計すらない。ここにあるのは静寂。そう、本を読むための環境が整っているのだ。

 翌朝のチェックアウト時には、5冊、6冊と本を大事そうに抱える宿泊客がフロントに連なる。大量の本を購入して持ち帰るという行為は、軽快な旅のスタイルとは結びつきにくい。荷物が増えても、重くなっても、本を連れて帰りたい――。

 その様子からは、各々が本とのすてきな出会いを果たし、濃密な時間を過ごしたであろうことが想像できた。(編集部・三島恵美子)

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