全米の大学(スタンフォード大学、ハーバード大学、マサチューセッツ工科大学、ニューヨーク大学、アメリカ国防大学他)からも講演依頼をいただいた。なかでもハーバード大学工学部で教えた経験は、有益だった。ES96という、実社会の複雑な問題に関する解決策を検討するプロジェクトベースの授業でのコラボだった。1F廃炉を題材として、具体的な課題を筆者が学生に説明し、学生が3カ月の間に創意工夫して解決策を提案し、筆者にプレゼンテーションした。
溶融燃料デブリの位置特定方法や、放射性物質を含む水を貯蔵するタンクからの漏洩防止策について、提案してもらった。学生の立場からは、実際の困難な課題解決に挑むという意味で、高い学習効果と学習意欲の向上につながり、東京電力の立場からは一流の学生からアイデアがもらえる、という双方ウィン・ウィンの関係になる授業であった。
GSBの人気授業の一つである、フェッファー教授の The Paths to Power に、2013年2月にゲストスピーカーとして招聘いただき、GSBでの学びが1F事故対応時にどのように役に立ったか等について紹介し、後輩たちとディスカッションするという光栄にもあずかることができた。
米国駐在中は、対面でのプレゼンテーションに加えて、電話会議形式での情報発信も毎週開催し、好評を博した。駐在期間が終了し日本に帰国して以降も、米国原子力業界の関係者から情報発信を継続してほしいとの強い要望が多数寄せられた。そこで、個人の課外活動として、1Fの廃炉の進捗や事故原因に関して新たに判明した事実について、公開情報をもとに、Zoomでの情報発信を毎月実施している。今後も、世界からのニーズがあり続ける限り、1F事故の当事者の責務として、発信を継続するつもりである。
立岩健二
京都大学・同大学院にて原子力を専攻し、1996年東京電力に入社。新型原子炉の安全設計等に従事していた2000年代初頭、「黒船」エンロンの国内電力市場への参入により業界に衝撃が走ったことをきっかけに、日本のエネルギー基盤を支えられる「技術のわかる経営者」を目指し、2004年にスタンフォードMBA取得。東電復帰後、日本の電力会社初となる海外原子力事業への出資参画を主導するも、東日本大震災で白紙撤回となる。国際機関と連携して福島第一原発事故対応に奔走するかたわら、日本のエネルギー基盤を「アンチ・フラジャイル」に立て直すための構想を検討。この一環として、「分散コンピューティングによる再生可能エネルギーの導入量最大化と電力系統の最適化」事業を考案。当事業を社会実装するプラットフォームとして、株式会社アジャイルエナジーXを2022年8月に東電の社内ベンチャーとして設立し、代表取締役社長に就任。