マキタスポーツ/1970年、山梨県生まれ。俳優、著述家、ミュージシャンなど多彩な顔を持つ。スポーツ用品店だった実家の屋号を芸名に。著書に『すべてのJ-POPはパクリである』『一億総ツッコミ時代』ほか。映画「苦役列車」でブルーリボン賞新人賞受賞
マキタスポーツ/1970年、山梨県生まれ。俳優、著述家、ミュージシャンなど多彩な顔を持つ。スポーツ用品店だった実家の屋号を芸名に。著書に『すべてのJ-POPはパクリである』『一億総ツッコミ時代』ほか。映画「苦役列車」でブルーリボン賞新人賞受賞
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甲子園ブラバンが生み出すグルーヴの秘密とは(※写真はイメージ)
甲子園ブラバンが生み出すグルーヴの秘密とは(※写真はイメージ)

 お笑い芸人のマキタスポーツさんによる「AERA」の連載「おぢ産おぢ消」。俳優やミュージシャンなどマルチな才能を発揮するマキタスポーツさんが、“おじさん視点”で世の中の物事を語ります。

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 高校野球を見に甲子園へ行ってきた。

 生観戦は、第62回大会以来38年ぶり。当時私はまだ10歳だ。後に母校となる地元の日川高校が出場ということで、県人会が組織した応援ツアーに参加した。愛媛の南宇和相手に、結果は0対10の完敗。一塁側のアルプススタンドで食べた味のしないカチ割り氷と、泣きじゃくる選手たちを眺めて呆然としたことを記憶している。

 それ以来私は春、夏と行われる高校野球を、テレビの前で、ボーッと、あるいは、熱ーく見てきた。そう、エアコンの利いた部屋で、アイスとかをぺろぺろと舐めながら。単なる呑気なファンだ。

 それも楽しい。しかし、あの時のように「現場感」が少し恋しいと思っていた矢先に、運よく取材が舞い込む。これは好機とばかりに二つ返事で引き受けることにしたのである。

 第1試合、「龍谷大平安vs.鳥取城北」。5回裏に会場に到着。暗めの通路を抜けると超満員のスタンドがのぞけて一気に興奮する。歓声がすごい。2対2で迎えた緊迫の9回裏、龍谷大の攻撃。いきなりサヨナラ勝ちが見られた。

 勝った龍谷大平安は甲子園春夏通算100勝目という記念碑的勝利。直接的には自分に何にも関係ないが、なんだかうれしい。さらに言うと、ご当地にも、選手のプロフィルにも、監督のキャリアも関係なく、そういう物語や、文脈を超えていきなり野球が面白いのだ。そしてこの複雑すぎるルールの野球を理解している人が1カ所にこんなにも集まっている。

 水を飲む。

 選手たちも、スタンドにも「給水タイム」。ふむふむ、熱中症対策か。

 続く第2試合は「八戸学院光星vs.明石商業」。7回裏、ここであることが気になる。さっきからアルプススタンドのブラスバンド(明石商側)の演奏曲「サンバ・デ・ジャネイロ」のテンポにだ。そこでBPM(1分間のテンポ数)を測ってみることにした。

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