政治学者の姜尚中さんの「AERA」巻頭エッセイ「eyes」をお届けします。時事問題に、政治学的視点からアプローチします。
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米朝首脳会談以降、非核化に向けた歩みは遅く、北朝鮮は米国から思ったほどの譲歩を引き出せずにいます。一向に進まぬ米朝関係を「膠着状態」と言う人もいるかもしれません。
北朝鮮は9月9日に建国記念日を控えており、急ピッチでなんらかの成果をあげたい状況です。朝鮮戦争で行方不明になった米兵の遺骨返還の後、トランプ大統領がお得意のツイッターで2度目の首脳会談に意欲をみせましたが、今のところ確定していません。「完全な非核化」が実現するまでは制裁を続けるという米国務省や財務省、議会のスタンスは首脳会談後もそのままで、北朝鮮には厳しい状況が続いています。
しかし、本誌が発売される頃には、韓国の文在寅(ムンジェイン)大統領が新しいメッセージを出している可能性もあります。8月末には3度目の南北会談を開催したいのが韓国の本心ですから、なんらかのメッセージを出すなら「解放の日」である8月15日が考えられます。
また、インドネシアは8月18日からのアジア競技大会に南北首脳を招待したがっていましたし、ロシアのプーチン大統領は9月にロシアで開かれる東方経済フォーラムに、金正恩氏を招待していると明らかにしています。これには安倍晋三首相も参加する意向を示しており、うまく運べば日朝首脳会談がセッティングされる可能性もゼロではないでしょう。
8月末から9月にかけて東アジアをめぐる慌ただしい動きがあるかもしれません。こういう中で、日本は9月に自民党総裁選があります。実質的には、安倍3選に向けた動きとなるでしょう。安倍外交の総括がしっかりとなされないまま「外交の安倍」との評価が独り歩きする形で3選のレールが敷かれたとして、それが果たして日朝首脳会談という形でうまくかみ合うのかどうかは、予断を許しません。
今年開催された南北首脳会談と米朝首脳会談がエポックメイキングな出来事だったとするなら、8月末から9月は第2のエポックメイキングが起きる可能性もあります。ただそれがうまくいかずに、つぶれる可能性もある。それも含めて今後の東アジアの動きに、目を凝らす必要があるようです。
※AERA 2018年8月27日号