●企業参入の“うまみ”のため、経営側に都合いい制度

 こうした状況について、個人加盟できる労働組合「総合サポートユニオン」の池田一慶さんは疑問視する。

「新人が大手で潰されていく典型的なケースだ。年収300万円程度でサービス残業を強いられるケースが多い。保育士に長く働いてもらおうという意識が経営側に感じられない」

 待機児童の解消のため保育士の処遇改善にスポットが当たっているが、恭子さんや明子さんのように低賃金・長時間労働にあえぐ保育士が多く存在するのは、なぜか。その背景には、株式会社を中心とした保育所経営の大規模化を狙った規制緩和がある。

 保育は公共性の高い事業であることから、かつては認可保育所は公立か社会福祉法人に限られ、1法人1施設の展開が主流だった。しかし、待機児童問題が深刻になり公立や社会福祉法人では需要に追いつかなくなると、2000年、厚生労働省は営利企業である株式会社などの参入を認める通知を出して規制緩和を行った。

 私立の認可保育所には、市区町村から運営費として「委託費」が毎月支払われている。委託費は税金を原資として国が2分の1、都道府県が4分の1、市区町村が4分の1を負担し、残りの運営費は保護者が払う保育料になる。

 この委託費は、「公定価格」に基づき、保育所が預かる子どもの年齢ごとに子ども1人当たりの保育に必要な単価が積算されている。内訳は、人件費、事業費(給食費、保育材料費など)、管理費(福利厚生費、土地の賃借料、業務委託費など)の三つ。預かる子どもの数によるが、1施設当たり年間1億~2億円の委託費が支払われている。そのうち人件費は8割となっている。

 もともと委託費は、「人件費は人件費に」「事業費は事業費に」「管理費は管理費に」という使途制限があった。だが、それでは利益が出にくく、企業が参入する・うまみ・がない。そこで、厚労省は00年、営利企業の参入を認める通知と同時に、私立の認可保育所に対して「委託費の弾力運用」と呼ばれる通知を出し、費用の相互流用を可能にした。

 そればかりでなく、将来的な修繕費や人件費の積み立てはもちろん、同一法人が展開する他施設の運営費、新規開設の費用にも流用できる。積立額に上限はなく、内部留保に回すことも可能だ。04年度からは社会福祉法人が運営する介護施設にまで流用可能となるなど使途制限が緩和され、次々と経営側に都合の良い制度と化した。

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