しかし、内閣府の「平成29年度 幼稚園・保育所・認定こども園等の経営実態調査」では、保育士の年収実績は私立園の常勤で約315万円にしかならない。前出の池田さんは憤る。

「公定価格の380万円は保証してほしいが、弾力運用がある限りは難しいだろう。一刻も早く人件費に縛りをかけて、保育士がきちんと処遇されるようにしてほしい」

 弾力運用については、国会でも問題視されている。18年2月の参議院予算委員会で片山大介議員が都内の保育従事者の人件費比率の数値を示したうえで、「弾力運用について縛りをかけるべきだ」と詰め寄ると、政府側は「ご提案の趣旨も受け止める」と答えた。

 18年3月に子ども・子育て支援法が改正される際に、参議院で「処遇改善策を講じるに当たっては、保育所等における人件費の運用実態等について十分な調査、検証を行うこと」という付帯決議が盛り込まれた。この意味は大きいはずだ。片山議員は指摘する。

「保育所を増やすことに主眼が置かれるあまり、保育士にしわ寄せがきている。いざ保育所が増えても肝心の保育士不足に陥り、保育の質も低下している。保育は“儲けよう”と思っても成り立たない。これからは、保育士側に立った政策にシフトし、処遇を守るためにも弾力運用に縛りをかけ、ブラック保育所の参入を防ぐと同時に配置人員数の引き上げも行うべきだ」

 保育所とは児童福祉法のもとで市区町村に設置義務がある。需要に追いつかないから民間に委ねられているだけであって、決してビジネスではないことを再認識しなければ、保育士も子どもも守ることができないだろう。(ジャーナリスト・小林美希)

AERA 2018年8月13-20日合併号

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