東京堂書店の書店員・武田学さんがオススメ一冊は『手塚マンガで憲法九条を読む』。手塚マンガに描かれた、日本国憲法九条の精神を読み解く小森陽一さんの解説にも注目。
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「生命の尊さ」は手塚マンガの根源的なテーマだ。手塚は強い反戦意識を持ち、平和への願いを込めてマンガを描き続けた。それは戦争放棄を謳い平和国家たらんとする日本国憲法の精神にも通底する。
解説の小森陽一は、微細な表現に着目しながら7作の手塚マンガに日本国憲法九条の精神を読み込んでいく。「紙の砦」には原体験としての過酷な軍事教練や空襲体験が生々しく描かれている。「ブラック・ジャック」の2編では原爆症や公害といった戦後の社会問題が浮き彫りにされ、「アトム今昔物語」ではベトナム戦争とそれに加担する日本が批判されている。
本書を読むと激動の同時代を鋭敏な感性でとらえ、経済大国化し、戦争を許す社会へと傾斜していく日本に警鐘を鳴らし続けた手の姿が浮かび上がってくる。手塚マンガの読み直しに格好の一冊だ。
◎『手塚マンガで憲法九条を読む』
手塚治虫著/解説・小森陽一
(1500円+税/子どもの未来社)
※AERA 2018年8月6日号