日本代表がベルギーと戦った翌日には、こんなことがあった。筆者は前日に宿泊していたロストフナドヌー市内のホテルにスーツケースを忘れてきたことを、市内から車で1時間ほど離れた空港に到着した際に気がついた。少し早めに空港に着いたとはいえ、搭乗まで1時間ちょっとしかなく荷物を取りに戻ったら予定の飛行機には間に合わない。何か良い方法はないかと困惑していると、ボランティアスタッフが「ホテルに連絡し、スーツケースを持ってきてもらえればギリギリ間に合うかも」と提案してくれた。すると、手際よくホテルと連携しドライバーの手配を済ませてくれ、荷物は何とか間に合い、飛行機に搭乗することができた。

 ともすると、それはボランティアのガイドラインからは外れたサポートだったかもしれない。だが、その親身になってくれる姿にこそ、真の「おもてなし」を感じたと言ってもよい。

 モスクワ国立大学に通うビクトリアは、ボランティアに応募したキッカケをこう話した。

「異なる文化や言語を持つ人々と触れ合えるのが楽しそうだと思ったの。それで、人助けもできるなら最高じゃない」

 翻って19年にラグビーW杯、20年には東京五輪を控える日本はどうか。現状、日本のイメージはロシアほど悪くないはずである。だが、有識者は軽々に「おもてなし」と言うが、日本人にそうした精神があるかは甚だ疑わしいだけに、イメージを壊しやしないか。少し気が早いが、来年、再来年に日本を訪れた人はどういう気持ちで帰っていくかを考えると、心配な気持ちは膨らむばかりである。(スポーツライター・栗原正夫)

AERA 2018年7月30日号