神奈川県相模原市の障害施設「津久井やまゆり園」で、19人が殺害され27人が負傷した殺傷事件から間もなく2年。「やまゆり事件」被告と面会続ける元職員が問う差別の構造とは。
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拘置所にいる被告と面会を続けている人物がいる。
津久井やまゆり園の元職員で、専修大学講師(社会思想史)の西角純志(にしかどじゅんじ)さん(53)。やまゆり園の職員として01~05年の間、亡くなった19人のうち7人の生活支援を担当していた。犠牲者の「生きた証し」を残そうと、遺族や職員たちへの聞き取り活動も続ける。西角さんによれば、被告は今も「自分は社会にとって正しいことをした」と話しているという。弱者を「国家や社会の敵」とみなす。このゆがんだ被告の思想はなぜ生まれたのか。西角さんに聞いた。
津久井やまゆり園の事件の背景には、植松聖被告自身の優生思想やヘイトクライム(憎悪犯罪)があるなどと言われています。
しかし、面会を続けて分かったのですが、被告は優生思想もヘイトクライムという言葉も、ナチスが障害者らを大量殺害した「T4作戦」も知りませんでした。事件後の報道や差し入れられた本などで知識をつけ、結果的にそれを自ら犯した殺人を正当化するのに利用しているのだと感じました。
被告は、自分が殺したのは意思疎通の取れない者であり、それは「心失者(しんしつしゃ)である」と述べています。つまり、殺したのは「人間ではなかった」と言っているのです。では何だったのか。
私は、19人の犠牲者は法権利から置き去りにされた「法外な他者」であったと考えています。例えば、ナチスに殺害されたユダヤ人がそうです。彼らは人種差別を正当化したニュルンベルク法によって市民権を奪われており、「最終解決」と称した大虐殺の時には完全に国籍を剥奪(はくだつ)されました。人間と見なされず殺害しても法が適用されないので、人間を殺したことにならず殺人罪に問えなかったのです。
犠牲になった19人は異例の「匿名発表」でしたが、「犠牲者は障害者だから」という理由に私たちは納得させられているのです。私は遺族とも面会を重ね、遺族が匿名を希望する理由もよくわかります。
しかし、匿名発表はそれ自体が差別を生み、19人は社会に存在しなかったことにされています。彼ら、彼女らは法の外に追いやられ、「法外な他者」にさせられたのです。今回の事件の本質はその点にあると考えています。
いまなお日本の社会には、優生思想や障害者差別が色濃く残っています。被告の言動はきわめて危険ですが、それは、ある意味、市民社会に対する挑戦で、国家や社会の力量が試されているといえます。(編集部・野村昌二)
※AERA 2018年7月16日号