ビジネスチャンスをモノにしさえすれば、そのプロセスは問われない。ましてや誰がそれを手掛けたかなどは関係ない──。そんな気風あふれる商社では、男女の性別も、総合職だの一般職だのの職制も、話題に上ることはないという。
商社の男も女も、そのアイデンティティーを組織ではなく、みずからに置くところがある。
自分のやりたいことを商社という組織を利用して行うというしたたかさを持つところは、男と女の間に、そう違いはない。
だが、その目指すところへ上っていく道筋は、やはり男と女では大きく異なっているようだ。
いま商社の男は仕事に「アメニティー(快適さ)」を、女は「やりがい」を求めている。
その働き方は意外にも、一般職の女が総合職の男をマネジメント。男はそれに従うだけだ。
国防の志を持って防衛大学校に入校したタロウさん(29)は、上には絶対服従、意見することは許されないという自衛隊ならではの組織風土に嫌気が差し、任官拒否を決意。卒業後の進路を商社へと定めた。
だが、そもそも幹部自衛官を育てる防大は一般企業への就職を目的とはしていない。「どう就活を行えばいいのかわからなかった」(タロウさん)という。
とはいえ、ごく少数だが商社勤務の防大OBもいる。
しかし縦横無尽に強い結束を誇る防大OBを訪問することはためらわれた。
「民間のOBが、防大の指導官をしている同期生に連絡するかもしれません。そうすると卒業前に自発的な退校を迫られる可能性もあります」(同)
防大OB人脈に頼れないタロウさんは、予備校時代、非常勤講師として教わった恩師の顔がはたと思い浮かぶ。恩師は元商社勤務だったという既婚女性だ。
わらをもつかむ思いでかつての恩師に連絡を取ると、彼女の動きは素早かった。夫である現役商社員にその場でメールを打ってくれた。
「夫に、普通では知り合えない自衛隊幹部との人脈を持った人をつなげてあげようと……。夫のためにも、若い防大生のためにもなると直感が働きました」(この女性)