京都大学卒で社内では「コースにのっている」夫の動きもまた素早かった。連絡を受けたその週末、タロウさんと喫茶店で会い、5時間近く話をした。夫が当時を振り返る。

「彼がどういう道に進むにせよ、商社という世界を正しく知ってもらいたい。まずはその思いだけでした。彼の人生がよりよきものとなるお手伝いができればそれでよしでした」

 だが、タロウさんに「商社員としての適性あり」とみた夫はさらに動く。

 そこにはタロウさんを通して、自衛隊幹部との人脈を築き、ビジネスへつなげたいとの思いも、当然、含まれている。

「同業他社ですが同期入社に防大を中退して国立大を出た者がいたので、そいつと一緒に彼をバックアップすることにしました。就活は縁と運です。うちか他社かはさておき、彼が商社員になったそのときは『仲間』として、心地よい仕事が期待できますから」(夫)

 こうしてタロウさんはかつての恩師の夫と、その夫が引き合わせてくれた防大中退OBのアドバイスもあり、2人が勤める大手商社とはいかなかったが、無事、有名専門商社へと入社。「商社員」として社会人のスタートを切った。

「彼が就職したところは、うちの社とも関係が深い。数年もすれば、彼がうちに来ているかもしれないし、私が彼の会社にいるかもしれない。一緒に仕事をする機会もあるでしょう。それが自衛隊相手のビジネスなら、彼をこの世界に手引きしたかいがあったというものです」(同)

 みずからがアドバイスをした後輩ともいえない後輩の活躍に顔をほころばせる夫だが、元商社勤務の妻は、夫とタロウさんのつながりをさらに強いモノにしようと躍起だ。

「タロウ君、まだカノジョがいないみたいなので、わたしの商社時代の後輩ちゃんとつなげたいです。気の早い話ですが、そのとき仲人はわたしたち夫婦でしたいですね」(妻)

 はしゃぐ妻に夫は目を細める。

「仲間が増える、慕ってくれる若い人がいることは心強いね」

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