姜尚中(カン・サンジュン)/1950年熊本市生まれ。早稲田大学大学院政治学研究科博士課程修了後、東京大学大学院情報学環・学際情報学府教授などを経て、現在東京大学名誉教授・熊本県立劇場館長兼理事長。専攻は政治学、政治思想史。テレビ・新聞・雑誌などで幅広く活躍
姜尚中(カン・サンジュン)/1950年熊本市生まれ。早稲田大学大学院政治学研究科博士課程修了後、東京大学大学院情報学環・学際情報学府教授などを経て、現在東京大学名誉教授・熊本県立劇場館長兼理事長。専攻は政治学、政治思想史。テレビ・新聞・雑誌などで幅広く活躍
この記事の写真をすべて見る
今焦って日朝交渉に入ると、後に禍根を残しかねない(※写真はイメージ)
今焦って日朝交渉に入ると、後に禍根を残しかねない(※写真はイメージ)

 政治学者の姜尚中さんの「AERA」巻頭エッセイ「eyes」をお届けします。時事問題に、政治学的視点からアプローチします。

*  *  *

 残念ながら米朝首脳会談の共同声明に拉致被害者問題が盛り込まれることはありませんでした。ただ、トランプ大統領は会談後の記者会見で「間違いなく、拉致問題を議題にした」と明言しています。気になるのはトランプ大統領が拉致問題につ いて伝えても、それが北側の対応を促すところまで行くのかということです。やはり拉致問題の解決には日朝の直接交渉が必要です。

 拉致問題は、北朝鮮の報告をどう検証するのかということがあり、これはある意味において核問題と似ています。どこまで誠意をもって真相を明らかにしているのか、その検証が不可欠です。場合によっては第三者機関も介在した検証という選択肢もあり得るかもしれません。

  北朝鮮が恐れているのは拉致問題が人権問題として、より広い反・北朝鮮キャンペーンに発展していくことでしょう。そんな時に日本がいくらアプローチしたところで北朝鮮がまともに対話に応じるとは思えません。

 今回、米朝首脳会談の共同声明の中に「朝鮮戦争の捕虜や行方不明兵士の遺骨の回収と返還」が盛り込まれました。これによって米国民の北朝鮮の印象は飛躍的に改善しますから、米国側が北朝鮮を説得したのではないかと考えられます。ここに ヒントがあります。

次のページ