2020年東京五輪を約2年後に控えたいま、日本ではマイナーとされる競技の選手が世界に飛び出している。中でも目立つのは女性アスリートだ。
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17-18シーズン、ハンドボールのデンマーク1部リーグに所属するニューコビン・ファルスターの池原綾香(27)は、日本人として男女を通じて初めてEHF(欧州ハンドボール連盟)女子チャンピオンズリーグ(以下CL)に出場した選手となった。
「移籍したチームがたまたま昨季のデンマークリーグで優勝したから、私もCLに出られただけ。ラッキーでした」
本人はそう謙遜するが、17カ国22チーム、300人以上の選手が出場したなか、157センチと最も小柄だった池原は欧州最高峰の舞台で確かな爪痕を残した。
シーズン序盤から右サイドで攻撃にアクセントを加えると、チームの1次リーグ突破に貢献。ニューコビンは惜しくも2次リーグで敗退したが、強国のハンガリーやロシアのトップクラブとの対戦は、池原にとって新たな刺激になったという。
「いままでは映像で見て、すごいと思っていた選手たちと戦い、力の差を痛感しました。ただ一方で、自分の伸びシロを感じ、闘争心もわいてきました」
国内リーグではレギュラーシーズンを4位で終え、来季のCL出場権(2位以内)は逃したが、池原はリーグの年間ベスト7(各ポジションの優秀選手)に選ばれた。この冬には2年の契約延長を勝ち取っている。
昨年12月に行われた世界選手権では日本代表「おりひめジャパン」の一員として出場し、2大会ぶりの決勝トーナメント進出に貢献した池原。ベスト8をかけたオランダ戦は延長の末に敗れたが、対外国人選手との戦いでもニューコビンでの経験が生きたという。
ハンドボールが文化として根付いているデンマークでは、街中でファンに声をかけられるなど、プロとしてプレーしている喜びを実感できる。
「日本ではそんなことなかったですから。洗濯物だって、日本ではすべて自分で管理していましたが、こっちでは置いておけば洗ってもらえる。自分でもプロっぽいなと思います(笑)」
環境が変われば、意識も変わる。「技術以上に、自身のメンタルの成長を感じる」と話す池原は「もっと早くにこっちの世界に飛び込むべきだった」と思うことも少なくないという。
「来季は今季達成できなかったデンマークリーグを制し、自力でCLの出場権を獲りたい」
それが19年自国開催の世界選手権(熊本)、20年東京五輪につながると信じている。
(文中敬称略)(スポーツライター・栗原正夫)
※AERA 2018年6月18日号より抜粋