「こんなウソを連発されたら周囲も気づくだろうと思うかもしれませんが、病的なウソつきの多くは、呼吸をするようにすらすらと自然にウソをつくので、騙(だま)されてしまうのです」

 と林さんは言う。

 こうした病的な虚言者の場合、精神医学的にものの見方や考え方、行動などが平均とは著しく異なる「パーソナリティー障害」と診断できるケースもある。なかでも自分の価値を誇示して称賛を求める「自己愛性パーソナリティー障害」の傾向がある人は多く、異常にプライドが高い前出の40代女性もこれに当てはまる。

 ほかにも、自分が常に注目されていたい「演技性パーソナリティー障害」や、感情や対人関係をコントロールできない「境界性パーソナリティー障害」、自分のことしか考えず、社会のルールを無視して犯罪も厭わない「反社会性パーソナリティー障害」の傾向がある人もいる。

 病状がより深刻と思われるタイプの一つが、「自分にメリットがないウソ」をつく人だ。

 ある30代女性もその一人。仕事は普通にできるが、「小学校の6年間給食をハンストした」「電車の座席は汚いから座ったことがない」など、意図不明のウソを次々口にする。職場の同僚が「へぇ、すごいねぇ」などと調子を合わせるうちに、エスカレートしてしまったという。

「自分を守るとか見えを張るなどなら、理解もできます。しかし彼女の場合はメリットが何もない。周囲に否定されないまま、ウソが生活必需品のようになってしまった可能性がある。常人には理解し難い『不思議な人』と考えざるを得ません」(林さん)

 そしてもう一つ、病気の色合いが濃いのが、「ミュンヒハウゼン症候群」だ。古くから知られる精神疾患で、症状を偽ったり、針を飲んだりするなど、自らを傷つけてまで病気を装い、病院を受診する。最近では、自身の子どもに大量服薬させるなどして病気にし、同情を集める「代理ミュンヒハウゼン症候群」のニュースも報道されている。

「ミュンヒハウゼン症候群のような特殊なものはごくわずかですが、病的なウソをつく人はたくさんいると考えられます。職場や家庭で振り回されている人も少なくありません」(林さん)

 では、周囲はどう対応すればいいのだろうか。林さんは、まず社会には病的な虚言の人がたくさんいると認識すること、そしてウソを指摘するなど「歯止め」をかけることが大事だという。

「小さい子どもは叱られてウソはいけないことだと学んでいきます。大人も同じで、悪いことは悪いと言ってくれる人がいなければウソは増大し続けます」

 とはいえ、余計な口出しはしないほうが無難、指摘したらトラブルになるのでは、と考えがちだ。林さんはこう続ける。

「虚言を放置してモンスターにまで成長させてしまった時の被害は、予想以上に甚大なものになることが多い。それよりは、たとえ険悪な状況が発生しても歯止めをかけるべきです。これは、病気を放置して悪化させ手のほどこしようがなくなるよりは、つらい副作用があっても今治療すべきだというのと似ています」

(ライター・谷わこ)

AERA 6月11日号より抜粋