図=AERA 2018年6月11日号より
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東京学芸大学国際教育センター教授・認知科学者 松井智子さん(撮影/島沢優子)
東京学芸大学国際教育センター教授・認知科学者 松井智子さん(撮影/島沢優子)

 子どものウソを頭ごなしに叱っていないだろうか? 確かにウソをつくことをいけないことだとしつけることは正論なのだが、実は子どものウソは心のSOSのサインでもある。

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 たとえば、母親の財布からお金を盗む行動は「愛情を盗むのと同じ」と言われる。「盗(と)ったでしょう?」と問い詰められても「僕じゃない」とウソをつく。

 都内在住の会社員の女性(45)は、今は高校生になった長男が小学生のころ、姉の貯金箱からお金を盗んだことを思い出す。姉の中学受験を前に、自分も夫も毎日必死だった。

「お姉ちゃんのお金、知らない?」と聞いたら、「知らない」と答える目が泳いでいる。女性は「すぐに、ああ、盗っちゃったんだなと思ったけれど、責めたりはしなかった。それからは私のほうが残業を減らして少し帰宅時間を早めたり、なるべく学校での話を聞くようにした」という。

 このようにウソの陰に孤独感や嫉妬などなんらかの悩みのようなものが隠されている、図のAタイプと似ているのが、Bの「心配させたくない」タイプ。こちらはウソの背後に、いじめや学業の遅れ、他者からのハラスメントが存在する場合もある。親の振り返りや、子育ての修正だけでは解決できない深刻なケースだといえる。

『子どものウソ、大人の皮肉』の著書がある東京学芸大学国際教育センター教授の松井智子さんによると、「親や先生を心配させたくなくてウソをつく。自尊心が強い、もしくは心のやさしい子に多い」そうだ。

 首都圏に住むパート主婦(55)は、長男が中学1年生の夏休み明けから不登校気味になった。よく見ていると、部活動の練習がある日を選んで休んだり、体調不良を理由に早退してくる。

「どうしたの? 学校で何かあったの?」と尋ねても、「何もないよ」と首を振る。「サッカー部が楽しくないんじゃないの?」と言うと「楽しいよ」。

 思春期の男子中学生は、親から働きかけても言葉が少なくなかなか会話が成立しない。そのうち、退部したいと親に訴えている子がいると知った。部内で、上級生のいじめがあったのだ。練習中に暴言を吐かれた1年生もいた。すぐに保護者同士で連携し、顧問の教員に相談。最終的に校長も入り、いじめ問題を解決できた。

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