「女性活躍」など軽々しく謳わないでほしい。「妻」か「妻でない」か。女性を分断し、人生の自由を奪ったのは誰なのか。
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「体力の続く限り仕事をするけど、その先どうなるか……」
Aさん(46)は、宅配便のドライバーをしながら息子を育てあげたシングルマザーだ。ギャンブル癖のある夫と離婚したのは20年前、当時息子は4歳。引っ越し費用がなかったから、離婚後も公営住宅に当選するまで元夫と同居を続けた。
「好きな仕事だけど、体力的にきつくて朝8時から15時までしか身体が続きませんでした」
手取りは月に14万円、児童扶養手当を(※1)入れても、生活は苦しかった。クレジットカードのキャッシングで生活費を補填していたが、返済ができなくなった。国民健康保険も滞納続きで、半年ごとに更新される短期証を使った。息子の公立高校への進学費用は、自治体の育英資金を50万円ほど借り、私立大学の費用は息子が奨学金を借りて賄った。
昨年、息子は正社員として就職、家を出て寮に入った。今、Aさんは一人で暮らしている。
「2年前から会社がパートにも年金と保険を払ってくれるようになって、今の手取りは17万円。一人ならこれで十分です」
息子の奨学金は元夫が相続で得たお金で返済してくれて、Aさんが自力返済しなければならない教育費返済額は月5千円ほど。「これで何とかなりました」
私はこれまで、教育費返済で自己破産したり、月10万円以上の返済で困窮したりするシングルマザーを数多く取材してきた。Aさんは「自力で食べていける」状態にはあるが、将来の展望が明るいとはとてもいえない。
だが、同じシングルマザーでも、夫と死別した妻の風景は全く違う。人生の最後まで、「遺族年金」が支払われるのだ。
どんな女性を大事にしたいのか、この国の意思が明確に制度化されたのが1985年だった。男女雇用機会均等法と労働者派遣法が制定された年だ。一見、男女平等実現に舵が切られたようでいて、女性の分断を生む政策が次々と進んでいく。