昨年末行われた全日本選手権でフリー『タイタニック』を滑り終えた紀平梨花は、何度かうなずいた後、右足首を両手でそっと包んだ。
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「もってくれて、ありがとう」
紀平にとって今季は、試合に出る喜びと同時に、怪我と向き合いながら戦う難しさをも味わったシーズンだった。
ジュニア時代からトリプルアクセルを武器にしてきた紀平は、トリプルアクセル―3回転トウループを世界で初めて成功させた女子スケーターでもある。シニアデビューした2018年にはグランプリファイナルで優勝し、それ以降も世界のトップで戦い続けてきた。2020年全日本選手権では、4回転サルコウも成功させている(国内大会のため国際スケート連盟非公認)。
2022年北京五輪には当時最強だったロシア女子に対抗できる数少ない存在として臨むはずだった紀平だが、試練が襲う。北京五輪シーズン開幕前となる2021年6月、右足首に痛みを感じ、後に疲労骨折と判明。なかなか完治に至らず、昨季は五輪代表選考のかかった全日本を含むすべての試合への出場がかなわなかった。
五輪への道が絶たれた失意を乗り越えた紀平の復帰戦は、昨年9月の中部選手権だった。約1年5カ月ぶりに競技会のリンクに戻ってきた紀平が跳んだ3回転はサルコウとトウループの2種類のみだったが、6位に食い込んで全日本出場の権利を勝ち取っている。
その後、紀平は右足首を労わりながら一歩ずつ進み続ける。10月下旬のグランプリシリーズ初戦・スケートカナダでは、3回転ループを構成に組み込む。そして、11月下旬に行われたグランプリシリーズ2戦目・フィンランド大会では、3回転フリップも成功させた。クリーンに滑り切ったフィンランド大会のフリーは、全日本への期待を高める出来栄えだった。
そして全日本を迎えるにあたり、紀平は3回転ルッツを構成に戻そうと試みている。紀平のルッツは、本来であれば大きな得点源だ。しかし同時に、ルッツは痛めている右足首への負担が大きいジャンプでもある。