紀平は、カナダ・トロントのクリケットクラブで練習している。全日本出場のため日本に出発する約一週間前から、紀平は曲かけ練習で2回転ルッツを跳び始めた。足首を痛める怖れを感じていたこともあり、3回転ルッツを成功させたのはトロントで練習した最終日で、一本だけ決まったという。
紀平はスケートカナダ5位、フィンランド大会4位で、グランプリファイナルへの出場はならなかった。国内開催の世界選手権をはじめとするシーズン後半のチャンピオンシップに出場するためには全日本で結果を残さなければならず、そのためにも紀平は3回転ルッツを跳ぶつもりだった。練習で一度成功しただけの3回転ルッツだが、全日本で表彰台に上がるためには挑戦が必要と考えたのだろう。
しかし、紀平は日本に出発する約二週間前に右足首を痛めており、その後は4、5日ほどジャンプの練習を控えていたという。さらに、全日本の期間中にもアクシデントが発生する。
全日本のショート、ミスが出たこともあり紀平は11位と出遅れる。挽回を期して臨むフリー当日、朝の練習でルッツを跳んだ際、またも右足首を痛めてしまったのだ。オーサーコーチの「フィンランド大会と同じ構成でいいと思う」という助言もあり、紀平は3回転ルッツを封印する決断を下す。
右足首を気にかけながら滑ったフリーだったが、紀平の演技は世界で戦ってきた風格が漂うものだった。ところどころにミスはあったものの、6分間練習で痛みを感じていた3回転フリップも加点がつく出来栄えで決める。終盤に続くコレオシークエンスとステップシークエンスでは、ジャンプを跳べない時期も磨いてきたスケーティングが『タイタニック』の壮大な旋律と溶け合い、演技後は立ち上がって拍手を送る観客の姿もあった。
紀平は、フリー8位、総合11位という結果で全日本を終えている。
「こうやって、全日本選手権に戻ってこられて。昨年は出られなかったので、なんとか自分の滑りをこの舞台でできたのが『本当に幸せなことだな』と今はすごく感じていて。でも、まだまだ演技や点数には全然満足はしていない」