――子ども優先ではなく、あくまで仕事をする場。就労中にどこまで子どもの相手をしてよいのか、判断に困ることもありそうです。
仕事ができなくなったら制度の利用は打ち切り、ということを職員たちに徹底させました。職務への支障が出たり、周囲に迷惑になったりしたと判断したら早退、あるいは、上司が状況を見て早退を勧告できるという決まりです。
実際に自主判断で早退した職員もいれば、私のように配偶者に予定より早めに迎えにきてもらった職員もいました。それぞれの判断がきちんとされていましたので、上司からの勧告というケースはありませんでした。
そもそも地方公務員には、職務専念義務が課せられています。つまり、仕事に専念できないとなると、それは違法になります。この義務と子連れ出勤とは、バッティングしてしまうのも事実です。ただ、初めから難しいと諦めてしまっては何も変わりません。
――子どもが騒いで「仕事にならない」といったトラブルは、実際にありませんでしたか。
子どもの特性を親はよくわかっているので、利用前にいったん親としての判断をするわけです。仕事場は子どもにとって決して楽しいところではなく、騒いで走り回ることはできません。わが子は、仕事のじゃまをせず、周囲に迷惑をかけずに過ごすことができるだろうか。さらに、利用してみたものの子どもがつらくなり、仕事ができなくなれば、切り上げという判断が入ります。
結果的に職場環境は乱れることなく、スムーズに実施できました。制度に助けられたというだけでなく、わが家もそうですが、親の仕事をする姿を見せられて会話が広がったという反響もあったんです。また、制度を利用していない職員からも、子どもたちがいることでかえって職場が和んだという声も多く上がりました。
――SNS上では、「仕事にならないのでは」「子どもを無理やり連れていってはかわいそう」といった批判の声も多く上がりました。
初めての試みですので、批判は必ず上がるだろうと、始める前から予想していました。さまざまなご意見は素直に受け止めています。ただ、十分な情報が伝わっていないうえでのお声もありましたので、この制度を社会に広げていくには、丁寧な発信が必要と考えています。
一つ言えることは、実際に預け先がなくて困った状況になったときに、子どもにとってふさわしい場があるかどうかが大切なのです。一時預かりの施設が利用できてのびのびと過ごせるならばそれがいい。おじいちゃんやおばあちゃんのもとで安心して過ごせるならばそれがいい。ただ、お父さんやお母さんの近くにいることが子どもにとって望ましいようであれば、市役所に連れてきてください、ということです。保育園や学童の代わりとしての利用は想定していません。