オウム裁判が終わり、死刑囚の分散も始まった。麻原彰晃こと松本智津夫ら13人が死刑、6人が無期懲役。弁護士一家殺害事件や地下鉄サリン事件……。オウム事件から何を教訓とすべきか。取材を続けてきたジャーナリスト江川紹子氏が問題を振り返る。
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ようやく終わった。
オウム真理教が坂本堤弁護士一家を殺害して28年余り。そして地下鉄サリン事件が起き、警察の大がかりな捜査が始まって23年。五つの凶悪事件に関わり、17年間逃走していた高橋克也の無期懲役判決が今年1月に確定して、すべてのオウム裁判が終了した。
一連の事件では、30人ほどの死者と7千人近い負傷者が出た。教団の192人が起訴され、190人が有罪に。教祖の麻原彰晃こと松本智津夫ら13人の死刑が確定している。
裁判では、各事件の事実関係がかなり判明した。重大事件に関与した一部幹部の裁判では、被告人質問や家族、友人などの証言で、生い立ちやオウムにのめり込んでいく経緯、教団での生活なども語られた。
凶悪事件に関わった者たちも、入信前は、ごく普通の若者だった。むしろまじめに生き方を考える青年たちで、大人たちから見ると「いい子」が多い。
彼らがオウムに入ったのは、バブル景気のまっただ中。札束が飛び交う金満社会の片隅で、本当の豊かさとは何かを考えたり、精神世界に真の幸せを求めたりする人たちもいた。また、『ノストラダムスの大予言』は売れ続け、テレビで霊能者ブームが起きた。
●信者の心を縛るのに「神秘体験」を利用
そんな時代に、「最終解脱者」を自称する麻原は、生き方に迷う若者や心の不安定さに悩む人々に対し、修行によって「すべてが思いのままになる」と説いた。そして、「ハルマゲドン(大破局)」が近いと語って危機感や不安をあおり、「人類救済活動」に加わる者が必要だと、若者たちの使命感を駆り立てたのだ。
例えば、端本悟(死刑囚)の場合。両親の証言によれば、反抗期もなく、素直な子どもだった。ただ、将来については「普通のサラリーマンにはなりたくない」が口癖。しかし、どうすれば自分らしく、意味のある生き方ができるのかが分からない。大学は法学部に進み、弁護士や青年海外協力隊などに対する憧れも芽生えたが、いずれも漠然とした夢物語だった。そんな折、オウムに入信した友人を脱会させようとして教団に近づき、逆に感化されて、自身がのめり込んだ。両親は反対したが、彼は「ハルマゲドンを止めなければ」「自分は今まで幸せに育ったので、恩返しをしなければ」などとまくし立て、教団に飛び込んでいった。
彼は法廷で、当時をこう振り返った。