早い時期に捜査が尽くされ、犯人が突き止められていれば、教団はそれ以上暴走するまでもなく、解散となっただろう。松本サリンや地下鉄サリンなどの事件は起こりようがなかった。それなのに、警察の捜査の問題が究明されずに終わったのは、納得しがたい。
もうひとつ残念なのは、せっかく裁判で多くの事柄が分かったのに、それが教訓として若い人たちに伝えられていないことだ。
若者がカルトにからめ捕られる危険性は、いつの時代にもある。近年では、「イスラム国」(IS)と称するカルト性が高い集団が、欧米に住む少なからぬ若者を惹きつけた例もある。
オウムの後継団体「アレフ」には、公安調査庁によると年間100人ほどの新規入信がある。かつてのオウムのようにヨガ教室を装って勧誘し、麻原を崇拝。事件と向き合う姿勢も見られず、信者に「オウム事件はすべて濡れ衣」「サリン事件もでっち上げ」などと書いた資料を配ったりもしている。
また、インターネット上では、「事件で使われたのはサリンではない」「サリンはオウムが作ったのではない」「実はCIAが……」といった趣旨の陰謀論がいくつも見つかる。
悲劇を繰り返さず、虚偽情報の拡散を防ぐためにも、オウム事件を通してカルトの怖さや手法を若者たちに伝え、身を守る知恵を得られるようにしてほしい。なぜ教育の場で、そうした情報を提供するようにしないのだろうか。
●保管期限を超えても裁判記録は全て保存すべき
事実を正確に次の世代に伝えるために、すべてのオウム裁判の全記録を適切に保存し、必要に応じて開示していくことも大切だ。法律上の保管期限を超えた記録は、刑事確定訴訟記録法による刑事参考記録に指定し、永久保存とする。そして、できるだけ早い時期に公文書館に移管するなどして、カルト問題やテロ対策に関する調査・研究、報道などに役立てるべきだ。
裁判が終わった今、死刑の執行も現実味を帯びてきた。
麻原の場合、家族が精神の異常を主張。法律では心神喪失状態の者の死刑は執行できないとあり、執行した場合には訴訟もあり得る。執行前に専門医が精神状態を入念にチェックし、記録に残しておくことが必要だ。