illustration:土井ラブ平
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「Yuzuru(ユヅル)」「Brian(ブライアン)」と呼び合う羽生結弦選手(23)とブライアン・オーサーコーチを始め、平昌五輪では、外国人コーチとのタッグで好成績を残した選手が目立った。

 ソチ五輪でメダルゼロだったスピードスケート陣は、今大会通算6個のメダルを獲得。ナショナルチームとして招聘(しょうへい)したオランダ人のヨハン・デビットコーチによるところが大きいとされている。カナダ出身のジェームス・リンドコーチが指導したカーリング女子も然り。

 さまざまな要因が考えられるが、コミュニケーション手段が英語になったことは、関係しているのだろうか。

 スポーツにおける言葉の働きやコミュニケーションに詳しい東海大学名誉教授の吉川政夫さんは、長年、「スポーツオノマトペ」を研究してきた。

 日本語はオノマトペ(擬音語、擬態語)が豊かな言語で、スポーツの場面でも多用される。

 その内容は多岐にわたり、「腰を落としてグッと押す」のようなパワー、「ポーンとボールを打ち返す」のような持続性、「ピタッと合わせる」のようなタイミング、「トン・ト・トンと足踏みする」のようなリズムなど、さまざまだ。

 こつをつかむ手がかりになるなどプラスの効果はあるが、あいまいな感覚表現で正確さに欠ける一面も否めない。ミリ単位、コンマ数秒単位で争うトップアスリートとなれば、意図が正確に伝わらなかったり、イメージの共有に差が生まれたりする危険性のほうが大きい。「ヒュンッと跳んでクルクルッと回る」で4回転は跳べないだろう。

 アテネ五輪柔道女子78キロ超級で金メダルを取った塚田真希さんは、大学院生時代、吉川教授のもとで「外国人柔道選手におけるスポーツオノマトペの使用実態と使用意識」を調査研究した。その結果によれば、欧州・豪州の柔道選手はオノマトペ表現に否定的で、必要性を感じておらず、彼らは動きを表現するときに、オノマトペではなく具体的な言葉を探しているという。

 吉川教授はこうも指摘する。

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