戦争、紛争、テロが起こると各国のマネー事情はどう変化するのか。過去に何が起こったのか、事例をもとに振りながら私たちへの影響を考える。
例えば、近年先進国で直接攻撃を受けた唯一の事例といえば、戦争ではないが2001年の米国同時多発テロ事件、いわゆる「9.11」と言っていいだろう。
株式取引所の目と鼻の先で数千人が犠牲になった9月11日、株式市場の取引は中止された。再開は週明けの17日。4営業日も取引が停止されている。ダウ平均は7.13%安の684ドル下落。その後も混乱は続き、1週間で1543ドル(21日)下げた。とはいえ、その後株価は1カ月足らずで回復している。
日本はどうだったか。日経平均株価も事件翌日に682円下落。1万円の大台を17年ぶりに割ったものの、やはり翌10月には株価を回復させている。少なくとも株式市場に限って言えば、戦争や大規模災害では瞬間的に暴落するものの、下げ続けることは少ないとされている。直撃でなければ、近くでも、当事者でも、下げ続けることは少ないとみていいのかもしれない。
一方で戦争は、別の見方からすれば大量消費であり、財政の大量動員を意味するともいえる。企業業績からすれば「買い」要因になるからだ。
ただし、戦争には政府の無理な戦費調達があり、深刻なインフレにも悩まされる。株価はインフレによっても上昇していくため比較的強いとされるが、敗戦となれば貨幣価値が変わり、国債が紙くずとなるのが普通だ。
それだけではない。金や為替も戦争によって大きく揺れ動く。金は「有事の金買い」と言われるものの、湾岸戦争(1991年)では動かず、むしろ「有事のドル買い」が意識された。
ところが当事国となった米国同時多発テロ事件では、米ドルが売られて金が買われた。金は、イラク戦争(03年)、リーマン・ショック(08年)を経て大きく上昇。米国同時多発テロ発生時点で、1トロイオンス=273ドルだったのが、イラク戦争で同400ドルを超え、リーマン・ショックでは一時的に下落したものの、その後回復して1923.70ドル(11年9月6日)の最高値を記録。金融緩和の影響も手伝い、有事の金買いが復活した。