ホットフラッシュと言われる顔のほてりやのぼせ、発汗、めまい、動悸、不眠……これらは自律神経が失調することが原因です。ほかにも腰痛や関節痛、ドライアイ、ドライマウスといった身体症状、そして倦怠感、不安感、イライラなどメンタルの調子が崩れることもあります。こうした症状をまとめて「更年期症状」、生活に支障が出るほど重い場合は「更年期障害」といいます。不調が出るか、出ないか、重いか、軽いかは人それぞれです。これといった不調を何も経験しないまま、気づけば閉経していたという女性も少なくありません。自分がどうなるかは、実際にその時期を迎えるまでわからないものです。

 40代半ばごろになると、月経の周期が乱れるようになります。こうなると更年期にさしかかったサインです。それまで28日前後の規則正しい周期で月経がきていた人も、そのサイクルが不安定になり、2週間おきに来たかと思えば急に2カ月近く空いたりすることもあります。

 ここ数年、30代の女性が外来に「プレ更年期かもしれない」と相談に訪れるケースが増えています。メディアで、30代でもホルモンの分泌が順調でなくなり、体調が思わしくなくなることを「プレ更年期」と名づけて紹介しているものがあり、その影響だと思われます。メディアが発信した造語であって医学用語ではなく、また更年期に「プレ」はありません。40歳未満で卵巣機能が低下して無月経、つまり月経が3カ月以上ない状態を早発卵巣不全、または早発閉経といい、100人に1人くらいの割合で起こります。その前にたしかに更年期症状が出ることはあります。ただし、プレ更年期というカジュアルな言葉で済ませる問題ではなく、きちんと無月経の原因を調べたり治療したりする必要があります。つまり、更年期のような症状の有無にかかわらず、月経が3カ月間来ないことがあれば必ず産婦人科を受診してほしいのです。

 プレ更年期を心配する女性たちは、40代が近づくと妊娠しづらくなるという知識は持っていて、そこから「女性ホルモンが減っている」「このまま更年期に突入するのではないか」「閉経してしまうのかもしれない」と恐怖に近いものを感じているように見えます。更年期について基本的な知識が備わっていないのと同時に、旧来のネガティブな更年期観がいまだ社会に残っていることを反映しているのではないかと思うのです。

 とはいえ、プレ更年期を心配する女性たちは、多かれ少なかれ不調があるのでしょうし、実際に月経不順の方もいらっしゃいます。それを婦人科で相談してくれるのは、とてもありがたいことだと私は感じています。更年期ではないにしてもホルモンバランスが崩れているなら各種治療を提案できますし、何かほかの疾患が関係してないか検査する必要が出てくることもあります。

 また、更年期に対するネガティブなイメージは、正しい知識、情報へのアクセスを阻み、適切に対処できなくなる可能性につながることがあります。診察室で、不調と年齢とを照らし合わせて更年期の可能性を指摘したところ「私、更年期なんかじゃありません!」と強く反発されたことが何度かあります。更年期の女性に「怒りっぽいオバサン」とレッテルを貼り、揶揄する風潮は現在、多少なりとも薄れたのかもしれませんが、消えたわけでもありません。たしかに更年期症状のひとつとして、イライラしやすくなったり怒りっぽくなったりしますが、それは男性更年期も同じです。そしてなんであれ、人の健康状態をからかったり笑ったりするのは適切な態度ではありません。そうすることで、誰かの治療を妨げるかもしれないという想像力は持っていて然るべきでしょう。

●高橋怜奈(たかはし・れな)
 1984年生まれ。産婦人科医。東邦大学医療センター大橋病院・産婦人科在籍。趣味はベリーダンス、ボクシング、バックパッカーの旅。2016年、ボクシングのプロテストに合格し、世界初の女医ボクサーとして注目を集める。ダイエットや食事療法、運動療法のアドバイスも積極的に展開している。著書に『「性」のはなしはタブーじゃない!』『おとなも子どもも知っておきたい新常識 生理のはなし』(共に主婦と生活社)、監修『産婦人科医が教える みんなのアソコ』(辰巳出版)がある。YouTubeやTikTokなど、ウェブメディアでも性の情報を発信している。女医+(じょいぷらす)所属。

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