「正直、戸惑いはあります」
と言いつつ、カメラを向けられると、
「もう少し顔を上げますか?」
妥協しないのは、スケートと同じ。
「僕にしかできないことがある」
と、自身が置かれた立場も理解している。それは、フィギュアスケートの魅力を伝えることだけにとどまらない。
「日本のどこに力が必要なのか。今なら自分の力や意思で、できることがある」
そう言って、東日本大震災の復興支援はもちろん、8月に起きた広島の土砂災害にも思いをはせた。
昨季はまさに、羽生結弦のシーズン。五輪、世界選手権、グランプリファイナルの3冠を達成した。それでも、満足感に浸ることはない。
「ここでやめるんだったら、威張ってもいいと思うんです。でも、僕は現役。変わっていくことをやめずにいたい」
今季、フリーでは3度の4回転ジャンプを組み込んだ。昨季より一つ増やして、失敗のリスク、体力の限界に挑むプログラムで勝負する。
練習中に腰を痛め、今季初戦と位置づけていた10月のフィンランディアトロフィーへの出場を見送った。回復具合は気になるところだが、自ら上げたハードルをどう乗り越えていくのか。11月7日、グランプリシリーズ中国大会で、進化した“羽生結弦”がベールを脱ぐ。(朝日新聞スポーツ部 金島淑華)
※AERA 2014年11月10日号