信田:そうなの? 私、息子に色々やってあげなくてよかった(笑)。

斎藤:息子は「こんな親いらない」と思ったら簡単に捨てますよ。でも娘はそれができない。だから、母息子問題よりも母娘問題はこじれる。

信田:かつて母親は息子のほうをかわいがるものだと思っていたけど、それは長男相続の時代における母親自身のサバイバル術だったんですね。愛情というよりも「老後の保険」だった。

斎藤:親の面倒を見るのも、息子の場合、恩義よりは世間体です。親を捨てたら世間や親戚からたたかれるという配慮のほうが強い。今後「むき出し系」の母親が増えると、息子はもちろん、娘も罪悪感を感じなくてすむわけだから、反発しやすくなるかも。それはそれで健全かなと思うのですが。

信田:ただ一方で、世間がまったく変わってない。「家族幻想」が根強く残っている。自分の家の中で起こっている親からの支配や虐待と、世間からの期待値との落差で、むしろ苦しむ子どもが増えるかもしれない。

斎藤:やめてほしいのが10歳でやる「2分の1成人式」という学校行事。親への感謝を強要する最悪の儀式ですよ。ああやって家族主義に洗脳していく。

信田:「親守詩(おやもりうた)」とかね。

斎藤:何ですか、それ?

信田:親が子どもを思って子守唄を歌うように、子どもが親への感謝や尊敬の気持ちを短歌にしたためる、という。全国大会まであるんです。

斎藤:いろんなことを思いつくなぁ(笑)。

信田:母娘問題に火がつくと、反作用のように家族主義、家族礼賛が強くなる。「生み育ててくれた母を悪く言うなんてけしからん」と。そうした中ではますます声が上げにくくなる。

斎藤:家族主義は個人を抑圧しますが、社会を安定させるという大きなメリットがあるんです。介護だって家族に丸投げできるから福祉への投資が少なくてすむ。自民党が家族主義をあおるのは、ある意味、合理的なんです。

信田:家族主義が強くなると、DVがますます増えるんじゃないでしょうか。ハラスメントや暴力に社会が厳しくなる中で、人前では出さないように気をつけるけれど、その分、家族や恋人といった親密な関係に矛先が向く。

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