【高崎】純手打ちラーメン店 香珍/高崎市内といっても、中心地からは車で20分以上の地域にあるが、手打ちにこだわるラーメン目当てに遠くから足を運ぶ客が昼夜絶えない(撮影/伊ケ崎忍)
この記事の写真をすべて見る
【高崎】純手打ちラーメン店 香珍/市長も取材当日に食べたという、自慢の手打ち麺はやや太めで、しっかりしたコシと滑らかな喉越しを併せ持つ。あっさりとした中にコクがあるスープとの相性もバッチリだ(撮影/伊ケ崎忍)

「絶メシリスト」なるサイトをご存じだろうか? 群馬県高崎市が市内の絶やしてしまうには惜しい老舗食堂を「絶メシ」と銘打って紹介するグルメサイトで、昨年9月に開設されるやいなや、大反響を呼んでいる。企画立案の背景、掲載店の思いをジャーナリスト・鈴木隆祐氏がレポートする。

【フォトギャラリー】自治体も支える昭和から愛された我が町食堂

*  *  *

「絶メシリスト」は「絶品」を「絶やさない」という二重の意味を持つ。もっとも、絶メツと誤読もされがちな、ちょっと際どいネーミングだ。高崎市企画調整課係長の小柏剛さんによれば、この命名には「異議もずいぶん出た」のだとか。

 しかし、「それくらいインパクトがなければ訴求もしない」と富岡賢治市長が英断を下し、ネットメディアから火がついて、瞬く間にテレビ各局も盛んに報道するサイトとなった。

 これはそもそも、外部参入による市の新規PR計画の一環から生まれた企画で、博報堂ケトルが案を出し、採択されたという。富岡市長自身、食でアピールするのは平凡と感じながらも「他にこれと言って打つ手もない」と考えあぐねていたところ、“灯台下暗し”の意見がもたらされた。

「大体、高崎も群馬もそう自慢するような名物もないんです。下仁田のコンニャクかネギ、嬬恋のキャベツくらいしか、私でも思いつかない。そこへ地元の食堂という、自分らでは気がつかない面を探し当ててきたのはさすがです」(富岡市長)

 むろん、この2、3年、市内の老舗の閉店が続いたのも絶メシの伏線とはなった。ことに東竜という代々、高崎高校の生徒のたまり場でもあった店は、2015年末の閉店を告知してから先、連日行列ができ、かえって1週間も閉店が早まった。ちょうどその頃、同じくファンの多い大衆中華の名店が2軒、相次いで店を閉じ、「さすがにこのままではヤバい……」と危機感も募っていたのだ。

 私はこの企画の始まる少し前にも高崎を訪ね、高崎高OBの地元企業社長に、43年も続いた東竜の看板メニュー、肉味噌ラーメンがいかにおいしかったかを説かれたばかり。だから、絶メシ発足の背景も身に沁みてわかる。

次のページ