政治学者の姜尚中さんの「AERA」巻頭エッセイ「eyes」をお届けします。時事問題に、政治学的視点からアプローチします。
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ドイツのメルケル首相のキリスト教民主同盟は、第2党の社会民主党との大連立政権を目指すことを明らかにしました。ドイツの連立交渉をめぐっては、キリスト教民主同盟と自由民主党、環境政党との3党連立交渉の決裂後、少数与党内閣の道を選ぶのか、あるいは解散総選挙か、と大いに揺れました。これらのドイツの連立騒動からわかることは、「解散権の行使」は日本のように簡単ではないということです。
一方で10月に行われた日本の衆議院選挙は事実上解散権の乱用に近く、これをめぐっては様々な議論が出ていました。しかし、残念なことに選挙後はほぼ議論されていません。この解散権の行使を考えるときにカギとなるのは、憲法第7条です。第7条には天皇の国事行為として衆議院の解散がありますが、天皇は政治に参入する権能を持っていませんから、結局内閣の助言と承認を盾に、あたかも内閣総理大臣の専権事項であるかのように行使されました。
ドイツは大統領が解散権を持っています。しかし日本の天皇と違うのは、ドイツの大統領は内閣首相と交渉したり、野党党首と会ったりできるということです。今回のキリスト教民主同盟と社会民主党の協議も、社会民主党出身のシュタインマイヤー大統領の仲介がありました。