一方で厚生年金を受け取る側は、給付水準が上がった。国民年金も合わせると、モデル世帯では04年度、「現役男性の平均手取り収入」の59.3%。それが14年度には64.1%に達した。

 この間、新設したマクロ経済スライドは一度も発動されなかった。物価が下がるデフレ状況では適用しないルールが原因だ。

 結局、現役世代は保険料が重くなったのに高齢世代は給付水準が上がった。厚労省が公的年金を「世代間の仕送り」と表現するなかで、「世代間の格差拡大」ともいえそうな状況に陥ったわけだ。その後も、発動は15年度の1回にとどまる。

 それを受けて16年、「年金カット法」と騒がれながらルールが変わった。18年度から、物価が下がったり、ほとんど上がらなかったりして本来の率まで減らせなかった場合、不足分を翌年度以降に繰り越す。この「精算」が実現できるほど高い物価上昇は、19年10月の消費税増税が引き起こすと想定される。ただ、「増税したうえに、繰り越し分の『精算』までできるでしょうか。政治リスクはきわめて高い」(ニッセイ基礎研究所の中嶋邦夫・主任研究員)。

 高齢世代の給付水準を引き下げられなければ、矛先は現役世代に向きかねない。マクロ経済スライドが長期化するか、保険料率に手をつけるか……。厚労省は04年の改革前、保険料率は25.9%必要としていた。自民党や内閣府の有識者検討会は、公的年金の受給開始年齢を遅らせる仕組みに言及した。

「超長期にわたる年金は、そもそも短期の成果を求めがちな政治と相性が悪い」(専門家)

 冒頭の会社では、老後の生活設計に向けた企業年金制度を用意する。「万が一の際には、会社ですらも頼りにならないかもしれない。もっと自助努力を意識してほしい」(前出の担当者)。結局、自分の身は自分で守るのがいいようだ。(編集委員・江畠俊彦)

AERA 2017年11月6日号