この手法は現実路線とされる。16年に36年ぶりとなる党大会が開かれたのも、「まず現実を直視する正恩体制の原則」(同)に沿ったからだという。実際に報告で、〈経済全般を見ると、(中略)ある部門は著しく立ち後れ〉と認めた。専門家は「電力不足は重大」との見方で一致する。
党大会の成果か、韓国銀行の推計で16年、「電力・ガス・水供給」部門のGDPが前年と比べて2割以上伸びた。構成比では国営の医療や教育といったサービスと並んで、「農業・林業・水産業」と「製造業」が2割を超える。
農業などは国内向けだが、製造業には重要な輸出品がある。繊維製品だ。東アジア貿易研究会のまとめでは15年、輸出入ともに最大相手国は中国。それぞれ全体の5、6割に達する。繊維製品はともに上位で、中国から糸や布などを買い、衣服に仕立てて売る加工貿易だ。
そこに核実験、弾道ミサイル発射に対する経済制裁が科せられた。韓国企業が進出し、北朝鮮が労働者を派遣する開城工業団地は16年2月に閉鎖。南北の貿易額は16年、9割近く減ったとみられる。韓国は前年まで全体の3割前後に及ぶ第2の貿易相手だったが、「今年は中国との貿易量が全体の9割に達するでしょう」(若林さん)。中国の統計では17年1~8月、北朝鮮との貿易を中国の通貨で計算すると、前年比12.6%増えた。
中国への依存度が高まるなか、17年8、9月と立て続けに制裁が強化され、石炭、鉄鉱石、鉛、海産物、繊維製品の全面禁輸が決まった。輸出の上位品目すべてが対象となる。中国も受け入れたことで、「外貨不足が深刻化し、真綿で首を絞めるように効いてくるでしょう。来年あたりから大規模な建設プロジェクトなどに影響が出るのは避けられません」(三村さん)。
それでは、核・ミサイル開発の費用をどう賄うのか。
「核やミサイル関連は、国家予算とは独立した特別会計と思ったほうがいい。人民経済を後回しにして、なんとかするでしょう」(同)
(編集委員・江畠俊彦)
※AERA 2017年10月9日号