日本列島を越えて弾道ミサイルをどんどん発射し、米国相手に挑発を繰り返す北朝鮮。国連の経済制裁が進む中で、経済や国民生活はどうなっているのか。
北朝鮮・平壌で人気の「ケーキ店」があるという。店舗を構えているわけではない。住宅街に立ち並ぶ、なんの変哲もないアパートの一室。看板も掲げずに「営業」している。それと知って行けば、「住人」の女性から、おいしいケーキが買える。その店はXアパートのY号室にあるそうだ──。これが「とっておきの話」として人から人へと口コミで伝わり、有名になった。環日本海経済研究所の三村光弘・主任研究員は、実際に行ったことはないが、こう想像する。
「きっと、料理が上手なセミプロ集団が雇われてケーキを作っているのだと思います」
社会主義計画経済を掲げる北朝鮮では、人を雇うことは資本主義の「搾取」を意味する罪深い行為のはずだ。しかし、
「すべて取り締まると国民生活に影響があるので、お目こぼしをしたのでしょう」(三村さん)
こうして民間資本の食品や衣服といった小売業が育ちつつある。それが原材料を売買する卸売業につながった。市場の周辺にあるアパートには原材料を保管する倉庫業。国営企業や軍のトラックを借りて配送する運送業。地方都市を結ぶ物流網も整備されてきたという。市場経済が根づいた。
●GDPは福井県並み
北朝鮮は1990年代半ば、3年続けて洪水や干ばつに見舞われ、農作物が壊滅的な被害を受けた。国の配給制度は機能しなくなり、闇市場が生まれた。その結果、地方政府が2003年、公設市場を設けるに至った。国営企業に対しても、計画生産よりも収益を重視する方針に切り替わった。つまり、農民にも国営企業にも自活を求めた。市場には商品が集まったが、オモテの収入だけでは手が出ず、ウラの収入を探す。夫は低賃金のまま働き、妻が市場で小売業を営む共働きが主流だという。三村さんが現地の人に詳細を尋ねると、「人の数だけウラの稼ぎ方がある」。冒頭の「ケーキ店」もウラの稼ぎ方といえる。
日本から見ると、国際的に孤立し、貧しいという印象が強いが、北朝鮮と国交を結ぶ国は164カ国に達する。国交がない米国、日本、フランス、イスラエルなどはむしろ少数派だ。