内情はどうなっているのか。ラヂオプレスによれば、15年の国家予算は公式レートの換算で約7500万ドル(82億円)。為替の水準は実勢価値とかけ離れており、他国との比較は難しい。
その一方で、韓国銀行の推計では16年の実質GDP(国内総生産)が3兆1569億円と、予算規模とは不釣り合いなほど大きい。朝鮮労働党や軍の独自ビジネスが原因だろうか。
この推計を前提とすると、最近の北朝鮮経済は堅実に成長を続けてきた。規模は日本の都道府県別で41位の福井県(県内総生産、14年度)とほぼ同じ。前年と比べて3.9%伸びた。「6~7%に達したのではないか」(三村さん)との見方もある。
拍車をかけたのは12年から段階的に導入された政策だとされる。協同農場や企業の責任者にさまざまな権限を委譲した。農場では生産物を国に一定量納めれば、余剰分は市場で自由に販売できる。企業には人材採用、生産計画、賃金、合弁といった大きな裁量権を与えた。
知恵と努力で収益が大きくなる──。とくに繊維製品や食品をはじめ軽工業企業では激しい競争に突入した。良質な製品を作れば、それだけ売れる。労働者にとっては賞与に反映されるので、いっそう技能を磨き、生産現場の改善も進む。こうした好循環が生まれたという。
東アジア貿易研究会の若林寛之理事長によれば、勤め先によって賃金の格差が10~20倍にも広がった。資産に余裕ができた層では、アパートの使用権を買って賃貸に出す不動産投資も流行しているそうだ。社会主義を建前としながら、「中産階級が生まれたのです」(若林さん)。
●中国との貿易が9割
金正恩(キムジョンウン)・朝鮮労働党委員長の下で経済政策を任されたのは朴奉珠(パクポンジュ)首相だという。既得権層を刺激しないように、きわめて慎重に庶民の生活水準を底上げする「綱渡りのかじ取り」(三村さん)をやってのける老獪な政治家だという。
朴首相は若い研究者や実務者を集めて「常務組」と呼ばれるグループをつくり、政策立案に向けた討議を託すようだ。案を採用すると、ごく一部で試行し、注意深く対象を広げる。常務組には「建国の英雄」の子弟が含まれ、「パワーエリート」として力をつけてきたとの見方もある。