■最高を超える山田錦プロジェクトの開催

 積み重ねているという点で、旭酒造は2019年から毎年「最高を超える山田錦プロジェクト」を開催している。

 このプロジェクトは全国の山田錦の農家に、これまでの山田錦を超える品質のものにチャレンジしてもらい、機械分析やプロによる目での判断など、さまざまな点から評価する。そして、優勝した山田錦を、旭酒造が市場価格の約25倍で買い取るというものだ。

 山田錦生産者にとっては日々のモチベーションになるし、山田錦生産者としての誇りにもなる。

 このプロジェクトを始めるのには桜井会長の山田錦に対する思いがあった。

「山田錦は1990年頃から生産量が減り、さらに単価も下がっていき、山田錦も生産者も未来がないと感じていたのです。でも、そこに疑問を持つ人が少なかった。それをなんとかしたいと思ったのです」と桜井会長は力を込めて話す。

 このプロジェクト発表当時は、評価基準のあまりの高さに参加をためらう生産者もいた。その一方、新たに山田錦の生産を始めた農家もいる。そこには、山田錦をつくる農家としての誇りがあるという。

「ニューヨーク蔵もそうですし、山田錦プロジェクトもそう。いろいろやることがあって退屈しませんね」

 桜井会長はそう話し、顔をほころばせた。

旭酒造本社と獺祭ストア本社蔵をつなぐ久杉橋(くすぎばし)は西日本豪雨で被災したが、隈研吾さんによるデザインで生まれ変わった
旭酒造本社と獺祭ストア本社蔵をつなぐ久杉橋(くすぎばし)は西日本豪雨で被災したが、隈研吾さんによるデザインで生まれ変わった

■中高年や高齢者の勇気となるもの

 日々の生活で生きていることへの幸せは、なかなか気がつけないかもしれない。幸せを気づかせてくれるのが、趣味や人との会話だと瀧先生は話す。ただ、決して無理をする必要は無く、楽しいと思えることが何より大切だ。

「そういう意味でも桜井さんは、仕事も趣味も楽しくやっているように感じます。中高年や高齢者の勇気でもありますね。これからの高齢社会の見本のような人です。桜井さんのニューヨークでの活躍が楽しみですね」(瀧先生)

(『週刊朝日』記者・鮎川哲也)

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