ところが、実際の本のなかには売れ残ったパンで料理を作る話は全く出てこない。そもそも、この本は余剰のパンを作らないようにするための挑戦や、思い描く理想とは違う現実に苦しむパン屋の葛藤を描いたものだ。
チャットGPTが書いた4冊の読書感想文にはすべて実際の本の内容との食い違いがあり、それを学校に提出したとしても教員の目をごまかせるとはとても思えない。
極めつけは『江戸のジャーナリスト葛飾北斎』(国土社)の感想文で、冒頭から荒唐無稽(こうとうむけい)である。
<『江戸のジャーナリスト葛飾北斎』は、画家・葛飾北斎が新聞・雑誌にイラストや漫画を連載し、当時の世相を風刺した活躍を紹介した本です>
当然のことながら、江戸時代に新聞や雑誌は存在しない。この本を読んだことのない人でも、まともな文章でないことはすぐに気づくはずだ。
「結局、チャットGPTに文章を書かせたとしても、内容について、きちんと裏をとる、というか、検証作業が絶対に必要です。なので、逆にチャットGPTで書かせた文章を使って作文指導をしたり、子どもたちにメディアリテラシーを身につけるための教材に使えるのではないか、と思います」
読書感想文を買うのと似る
青少年読書感想文全国コンクールの審査では剽窃(ひょうせつ)や盗作が行われていないか、チェックする。
「応募作品を読んでいくとちょっと違和感を覚えることがあります。その部分を調べると、過去作品を書き写したり、インターネット上に掲載されている文章を使ったりしている。チャットGPTで生成した平坦な読書感想文を仕上げるために文章を書き足すと、自分ではうまく入れたつもりでも文章全体の流れからすると違和感が出てきます」
5年ほど前、インターネットのフリーマーケットサービスで「読書感想文が販売されていた」ことが問題視された。設楽理事長はチャットGPTで読書感想文を生成することと、フリーマーケットサービスで感想文を買う行為は似ているという。
「フリーマーケットで購入した感想文は本人がその行為を打ち明けないとわかりません。チャットGPTの読書感想文は、読む側が『おかしい』と感じても、本人が『チャットGPTに書かせました』と言わないかぎり、それはわかりません。そんな難しさがあります」
対話型AIのチャットGPTは「生成系AI」とも呼ばれる。子どもたちがチャットGPTを使って文章を「生成」させるスキルが高まるほど、たしかに読み応えのある感想文に近づくかもしれない。だが、言い換えればそれは、技術を使いこなすための関心や能力を高めているといえなくもない。今後、教育現場はチャットGPTを含めて、AIと共存する道を模索すると同時に、それをどう使うか、モラルの指導を繰り返し行う必要があるという。