「昔はね、モテたんだよ」と新太郎さん。旅先で恋に落ちたことも数知れず。今ごろ天国でもモテモテに違いない(写真:本人提供)
「昔はね、モテたんだよ」と新太郎さん。旅先で恋に落ちたことも数知れず。今ごろ天国でもモテモテに違いない(写真:本人提供)
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「流しは人間の出すエネルギーを売る仕事。パッションが必要なんです」と、パリなかやまさんは語る(写真:本人提供)
「流しは人間の出すエネルギーを売る仕事。パッションが必要なんです」と、パリなかやまさんは語る(写真:本人提供)

 何やら聴き慣れぬ音色が近づいてくる。奏者の姿は見えない。正体は、新たな展開をみせているAI(人工知能)。人間と協調して演奏し、わずか数十秒で作曲もするとか。AERA 9月4日号ではAI時代の音楽を見通すアーティストや動きを大特集。

 AIやデジタル技術に押され、アナログ演奏は衰退して……いない。酒場の「流し」、クラシック奏者の「出前」など、生演奏市場が活況という。

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「小さなギターを肩にかけ/今日も四谷を一人旅/時代遅れの商いと/人は気軽に言うけれど/俺にはこれしか能がない」

 ギターを抱えて西へ東へ。旅をしながら、日本中に歌人情を届けた、日本最高齢「流し」の新太郎さんのテーマソングの一節だ。ここ10年ほどは、昭和の面影が残る東京の四谷・荒木町の酒場を中心に練り歩き、客のリクエストに応じ、哀愁たっぷりの演歌を披露した。

 黒の着物に身を包み、顔には薄い色のサングラス。一見ちょっと怖そうだが、語り口は優しい。その人気は全国区で、「新太郎さんに会いたい」と遠方からもファンが訪れるほどだった。

●伝説の流しの「予言」

 8月19日、そんな新太郎さんが75歳でこの世を去った。

 15歳から流しを始め、今年は60周年の節目だった。旅立つわずか2週間前、入院先の病院で、記者の目をしっかり見ながら語った、予言のような一言が忘れられない。

「流しはまた上がってきますよ、必ず。本物の音楽だからね」

 昭和初・中期には全国で数千人はいたといわれ、娯楽が少ない時代に、流しは飲み屋街のスターだった。北島三郎や渥美二郎、竜鉄也らも生んだ。だが、1970年代から始まるカラオケブーム以降、徐々に需要は減り、その数は激減していった。

 しかし昨今、追い風が吹いてきた。人の価値観が物質重視の「モノ」から、思い出や体験を求める「コト」へと変化。音楽ビジネスでも、CDの購入額が激減する一方、目の前で音楽を体験できるライブの市場が再び伸びている。

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