杉田 2022年7月の参議院選挙は、不幸にもその投票日の2日前に安倍元首相が銃撃されたことで、「弔い選挙」になるとの見方が強くありました。地滑り的に自民党が大勝すると多くが予測したわけです。しかし実際の自民党の獲得議席は、メディア各社による事前予測の上限程度にとどまりました。自民党の比例区の得票数を見てもそんなに増えていない。しかも全体の投票率は52%で、前回19年の参院選と比べても3ポイントほど上がっただけです。
加藤 投票率が上がらないのは、なぜでしょうか。
杉田 よくわからないところはありますが、今回の参院選は期日前投票がすでに20%ほどあり、事件前にはすでに投票を済ませていた有権者が多かったことも、影響したのかもしれません。
それにしても、近年の国政選挙の票の推移を見ると、ほとんど「動き」が見られません。自民党に投票する人は何があっても常に自民党に入れる、という傾向があり固定化しています。ただ、その中で少しずつ共産党が票を減らし、立憲民主党も明らかに票を減らしている。21年の衆院選で躍進した日本維新の会は、今回の参院選では思ったよりも伸びなかった。自民党の票が維新に少し流れている傾向もあったのですが、今回は保守票の一部が自民に戻ったと見る専門家もいます。
そして最大多数を占める、いわば日本の「第一党」ともいうべき無党派層は、今回も全く動いていない。あのような銃撃事件があっても、投票所に足を運ばなかった。つまり、無党派層が選挙に参加しなかったために、自民党の票も増えなかったのでしょう。
加藤 なぜそこまで固定化しているのでしょうか。
杉田 21年12月の「日経ビジネス」電子版に米ダートマス大学政治学部教授の堀内勇作さんの投票行動に関する研究が出ていたのですが、調査の時に、たとえば原発など論争的な争点について、野党の政策を「これが自民の政策です」として示したうえで、政党支持を尋ねると、自民支持層のある部分は、それでも自民を支持するということが書かれています。つまり、政策の中身ではなく自民党だから支持する、自民党というブランドに投票する人がかなりいる、というわけです。ここには、「みんなが投票している政党に入れておけば無難だろう」という「同調圧力」というか、日本人に特に強い心理がはたらいているかもしれません。「周りがマスクをしているから、とりあえずマスクをしておいたほうがいい」というのと同じことで、自分の意見というものがないのではないか。