それに加えて、選挙を「答え合わせ」のように考えている人たちも見受けられます。自分が入れた人が当選すれば自分の投票は「正答」、落選すれば「誤答」であったことになると考え、当選しそうな人に入れる。「自民党が勝つのは、自民が正しかったから」といった考え方も、ネット上でよく見かけます。

 こういう「答え合わせ」的な発想というのは、政党政治を主軸とする我々の代表民主政の理解としては間違っています。政治においては、正しい考え方がいくつもある。そのどれかがより正しくて、どれかは間違っているとは言い切れない。だからこそ、複数の勢力が戦い、とりあえず勝った勢力が権力行使を担いますが、それは、その勢力の考え方が正しい、ということを意味しません。制度上、どこかに任せなければならないから、とりあえず任せているだけであって、「正答」とか「誤答」とかの話ではありません。

 日本の場合には、宗教間の対立など、根本的に考え方の違う人々の存在を日常的に意識する機会が少ないこともあり、「答え合わせ」的な発想にハマりやすいのかもしれませんが。また、実はルソーも『社会契約論』で、少数意見となった人々は、共同体全体の「一般意志」を誤解していたことを恥じるべきだ、などと言っており、「人民主権」論そのものに「答え合わせ」的な方向性があるかもしれません。

加藤 結局、政策の論議をいくらやっても自民党には勝てないという話になりますね……。長谷部さんは選挙についてどう見ていますか。

長谷部 フランスは第五共和制になってから、右と左で政権交代をしてきたと思われていますよね。しかし、主要二大政党の一つの「社会党」は勢力を失う一方で、近年はマリーヌ・ルペン率いる極右の「国民連合」、極左「不屈のフランス」が急速に勢力を伸ばしています。その中でマクロン大統領は中道勢力をまとめて、何とか政権を維持しようとしている。第三共和制や第四共和制のときの政党状況に先祖返りしたかのようです。

 さて、日本の政権政党の自民党はどうか。自民党は「一つの政党」だと思われていますが、本当にそうなのか、よくわからないところがあります。神聖ローマ帝国について、神聖でもローマ風でも帝国でもないと言われることがありますが、自民党もリベラルでもデモクラティックでもないし、果たしてパーティと言えるほど、政治家それぞれの志向が一致しているのか。むしろ、政権を維持することだけを目的に集まっている中道勢力と言えるでしょう。

 安倍政権は、これまでの自民党政権と比較しても明らかに「右寄り」の特異な政権でした。安倍さんなき後、自民党が元の中道勢力の連合体に戻るのかどうか、これもある意味で分岐点ではないでしょうか。

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