
元朝日新聞記者でアフロヘア-がトレードマークの稲垣えみ子さんが「AERA」で連載する「アフロ画報」をお届けします。50歳を過ぎ、思い切って早期退職。新たな生活へと飛び出した日々に起こる出来事から、人とのふれあい、思い出などをつづります。
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先日のアエラで変わりゆく葬式のレポートがありました。確かにスタンダードな形は崩れつつある。私がそう実感したのは4カ月前の母の葬式においてでありました。
親の葬式をどうしようなんて、その時にならなければこれっぽっちも考えたことはなかったのです。ところが驚いたことに父は明確なプランを持っていた。無宗教、家族葬でというのがその揺るがぬ意思でした。
そして葬儀社と打ち合わせを始めると、実は「そういう人」のためのプランが完璧に用意されていたことにまたびっくり。今や少数派でもなんでもないらしい。
というわけで、参列者は身内のみ、お経もお焼香も戒名もなしということで打ち合わせは順調に進んだのですが、葬儀社の方が「お考えいただきたいことが」と一言。「どう間を持たせましょうか」
な、なるほど……。確かにわざわざ遠方から来られる方もいるのに、これでは何もすることがありません。
というわけでプラン修正。お焼香だけはしていただき、あとは喪主である父だけでなく、姉と私も親戚の皆様にご挨拶をさせていただくということにあいなりました。
そしていよいよお通夜です。
いやトップバッターに立った父の挨拶が長いのなんの! 母との最初の出会い(小学校時代)から始まって、結婚を意識するようになったなれそめまで、まさかのロングラブストーリー。さらに母の病から死に至るまでの思いが涙とともに披露され、娘も初耳の秘話満載です。で、それに刺激された姉の話がまた長い! 母の最期に焦点を当てた実話はこれまた涙なしでは聞けぬ名調子。で、私!? いやもう話すこと残ってないんですけど……。超しどろもどろになり、葬儀では挽回せねばと夜を徹して原稿を練り直す羽目に。そんなこんなで2日間にわたり喋りまくる遺族。こんな葬式見たことない。
母もさぞ苦笑していただろうなあ。でも案外思い切ったことが好きな人だったから「なかなか良かった」と誇らしげにしていた気もします。
※AERA 2017年8月28日号
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