●追われる立場じゃない
昨季の羽生はFSで、風や自然や風景を表現するという難しい挑戦をした。苦しみながらも、最後の最後に世界選手権で歴代世界最高得点を更新したことが、自信を揺るぎないものにしたようだ。この経験を生かし、今季はフリー「SEIMEI」で陰陽師のキャラクターを際立たせて演じつつ、情景まで表現したいという。
「目線、手の振り、足の振り、上半身の動き、そういうものでキャラクターを演じつつ、どういう情景でどんな状況かを出せるようになればと思います」
ブライアン・オーサーと共に、羽生を支えるコーチのトレーシー・ウィルソンは、
「彼は自分自身を高めようとし続け、チャレンジをやめようとしなかった。真のチャンピオンだ。重圧ともうまく付き合うことができている」
と称賛した。
自信を持つ一方で、羽生は自分と他選手との距離感を冷静に受け止めている。
報道陣からは、追われる立場であることについて問う声も上がったが、
「追われる立場とは思わない。ソチの時よりもメダル争いはすごく熾烈(しれつ)になっている」
ソチ五輪の金メダル最有力候補はパトリック・チャン(26、カナダ)。羽生は2番手で、他の選手は当時の状態も考慮すると、この2人とは少し差が開いていた。
しかし、平昌五輪では、羽生、ハビエル・フェルナンデス(26、スペイン)はもちろん、ネーサン・チェン(18、米国)、宇野昌磨(しょうま、19)、金博洋(ジンボーヤン)(19、中国)らも状況次第で金メダルに手が届く。
少年時代に、ロシアのエフゲニー・プルシェンコやアレクセイ・ヤグディンが激しくトップを争った様子を見て、このスポーツにのめり込んでいった羽生。そんな激しい争いは望むところだ。その上で勝つことにこそ、価値を見いだしている。
「みんないろんな個性を持っていて、個性同士がぶつかる。すごく楽しいし、僕の個性っていうのはオールラウンダーであり、すべての質が高いこと。そういう武器を生かして戦いたい」
(朝日新聞スポーツ部・後藤太輔)
※AERA 2017年8月28日号